米大統領選、勝敗の“カギ”を握る州は? ヒスパニック系の動向にも注目 渡辺靖・慶應大教授に聞く
――米大統領選の勝敗を占ううえで注目されてきたオハイオ州はどうでしょう。 オハイオ州は確かに、「そこを落とした共和党候補で大統領になった人はいない」、「最後にオハイオを落として大統領になったのは1960年のケネディ」などと言われます。 ただ、オハイオ州というのは最近保守化していて、どちらかというと、共和党のいわゆる「レッドステート」になりつつあります。なぜかというと、人口の構成比が、アメリカ全体に比べると白人の割合が突出して多いんですね。教育水準についても、全米平均に比べて労働者や低学歴というか、大学にいっていない層が多い。だから、そういう意味ではアメリカ全体の指標になるというよりは、共和党が優位のインディアナ州と似てきています。
投票行動で注目する人種は?
――米国社会には黒人系、ヒスパニック系、アジア系など多様な人種が混在しています。今回の選挙で注目する動きはありますか。 興味深いのはヒスパニックで、前回も30%以上がトランプに投票しています。その理由は、自分たちは合法的に(アメリカに)入ってきたので、非合法で入ってくる移民たちが自分たちの競争相手になるのはまっぴらご免だ、と。自分たちの賃金も下がってしまいますし、彼らの中にはトランプの入国管理を厳しくする政策は「全くその通りだ」と言って賛成する人もいる。 一方で、入ってきたばかりのヒスパニックの人々はまだあまり世俗化しておらず、宗教的に保守的な人もいます。だから人工妊娠中絶に反対するトランプ大統領のメッセージが響く人もいるのです。 ――黒人市民が白人警察官の暴力によって相次いで死亡したことを受けて広がったブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事だ。BLM)運動が広がっています。 BLM運動が生まれ、民主党の副大統領候補には黒人系のカマラ・ハリス氏が指名され注目されました。けれども、ヒスパニックがどれほど注目されているのかというと、そうでもないこともヒスパニックの投票行動に影響があるかも知れません。 ヒスパニック系の中ではトランプ大統領の経済政策によって報われた人もいます。またトランプ大統領はビジネスマン出身で、“成功”しているわけですよね。だから、ああいうタイプに憧れる人もいる。 これらの理由でヒスパニック系の人々に関して言うと、実はバイデン氏は前回の民主党大統領候補、ヒラリー・クリントン氏のときほど抱え込みきれていないという数字もあります。なので、もしフロリダとかアリゾナなどの州でトランプが勝つようなことがあれば、1つの要因はこのヒスパニック票の作用かも知れません。 ■渡辺靖(わたなべ・やすし) 1967年生まれ。1997年ハーバード大学より博士号(社会人類学)取得、2005年より現職。主著に『アフター・アメリカ』(慶應義塾大学出版会、サントリー学芸賞受賞)、『アメリカのジレンマ』(NHK出版)、『沈まぬアメリカ』(新潮社)など。近著に「白人ナショナリズム」(中央公論新社)がある。