「他車と遜色ない」を示したスズキCNチャレンジ。佐原伸一氏が「続けたい」と見据える未来と挑戦/鈴鹿8耐
2024年の鈴鹿8耐で、一際話題を集めていたのは2022年以来となるスズキワークス活動の復帰と新たな挑戦だろう。サステナブル要素を取り入れたスズキGSX-R1000Rを使用したチームスズキCNチャレンジは、初出場にて総合8位という功績を残した。そんな彼らが決勝レースを終え、今後に向けての期待を語った。 【写真】エティエンヌ・マッソン(Team SUZUKI CN CHALLENGE)/2024鈴鹿8耐 スズキの社内で「サステナブルな燃料を使って鈴鹿8耐に出よう」と議題に上がったことから、2024年の鈴鹿8耐への参戦が決まったチームスズキCNチャレンジ。参戦に至るまでには、社員やチーム一同の熱い想い、そして他社からの協力も経て実現し、環境性能と技術の向上を目指すという新たな挑戦の下での出場となった。 まずは完走を目標に掲げていた彼らだが、事前のテストからトップ10に食い込む速さも見せていただけに一同がさらなる期待も抱いていた。予選では16番手となったが、決勝では8位とシングルフィニッシュ。初参戦ということを考慮しても、長時間の耐久レースでこの結果は功績に値すると言っていいだろう。そんな決勝レースをライダーの濱原颯道は次のように振り返った。 「滑り出しとしてはすごく良かったと思います。カーボンニュートラルやサステナブルといった持続可能かつ環境に配慮したものを使っているなかで、やはり最初はハンデがあるかと思っていました。ですが、そこまでハンデを感じず、結果として総合8位になれたのでよかったです」 事前のエントリーでは生形秀之、濱原、エティエンヌ・マッソンが登録されていたが、決勝では濱原とマッソンの2名体制で戦い抜いた。開口一番に濱原も「過酷でしたね」と語っていたが、そんなライダーを含めチームの働きを、プロジェクトリーダー兼チームディレクターを務める佐原伸一氏もしっかりと評価していた。 「目標としていた鈴鹿8耐完走は達成できましたし、しかもシングルフィニッシュの8位ということで、本当に良くやってくれました。チーム員は100パーセントの力を、ライダーは120パーセントの力を出し切って走ってくれたので、この結果に結びつけられたと思っています」 「普通で考えるとありえないほど短い準備期間しかありませんでしたが、そこも含めてチームが本当に良くまとまってパーフェクトに動いてくれました。さらにそのチーム員をサポートしてくれるたくさんの方がいたので、会社全体で達成できたと思っています」と佐原氏は語る。 今回の鈴鹿8耐は、ヨシムラSERT Motulの全面的なバックアップも得てスズキGSX-R1000Rが用意された。そこには40%バイオ由来のFIM公認サステナブル燃料や再生タイヤなど様々なパーツを多く採用。事前のテストから「戦闘力が高い」と太鼓判を押していたが、実際に一戦を交えたことでさらにマシンの強みも見えたという。 「僕たちのバイクはストレートで速かったので、みなさんも結構驚きだと思います。バイオ燃料を使っているから、直線が遅いと思われがちですが、他の多くのバイクよりは僕たちのスズキのバイクは速かったですね。なのでバイオ燃料でも抵抗なく、皆さんに使ってもらえたらなと思います」と濱原。 他車とも遜色ない走り、速さを示した一戦となったが、彼らのプロジェクトにおける成果も気になるのが正直なところだ。未来の2輪レースだけでなく、市販車にも影響を与えるであろう今回の試みで、サステナブルアイテムはどのように機能していたのだろうか。 「レースで勝つためだけに専念したパーツよりは性能として劣っているかもしれませんが、今後は環境に配慮し脱炭素を目指すパーツも使っていかなければならないと思います。結局サステナブルではないタイヤも減るので、使い方次第では25周や28周と保たせられます」 「バイオ燃料やオイルもフィーリングの変化はありますが、普通の全化学合成のオイルでも、シフトフィールなどが変化することは元々知っていました。なので、そういう意味では8時間のなかでシフトフィールやエンジンのフィーリングなどが変化していくのは、他のバイクと遜色ないと思います」 これからの未来を見据えたバイクの在り方と方向性の開発も担い、先手を切ってチャレンジした。そんな彼らの鈴鹿8耐における走りによって、サステナブルアイテムの成果と性能を示すことができたことだろう。しかし、今回の参戦だけにとどまらず、佐原氏はすでにさらなる未来も見据えていた。 「順位的にもまだまだ上を目指さなければならないと思っています。今後どういうステップを踏むかはわかっていませんが、今回は40%バイオ由来の燃料を使用しましたが、100%のバイオ由来やカーボンニュートラル燃料といったところもいずれ挑戦しなければなりません」 継続していきたい、未来のバイクの在り方を変えたいという想いは佐原氏だけではなく、チームとしての意思であり目標となっていることだろう。今回ライダーとしての役割もしっかりと果たした濱原も、次のように想いを語った。 「昨年の鈴鹿8耐で、2度とこの場所でレースができないのかと思いながら寂しい思いで解説もしていました。でも、今回ファクトリーチームで走れたことで、僕もまたこういう場所で走れるんだと実感しましたし、今後はそれこそ総合で表彰台を目指していくべきプロジェクトだとも思います」 「なので、今回スズキが2年ぶりにファクトリーとして参戦した意味はすごく大いにあったと思っています。でも、1回のみでは本当にいい思い出だけになってしまうので、持続していけなければなりません。今回の結果と僕の走行データを見て頂いて、また起用してもらえるような評価だと嬉しいです」 そんな彼らのプロジェクトは、今後ファンとしてもレースをする側としても注目していきたいところだ。"継続は力なり"という言葉もあるが、チームスズキCNチャレンジの挑戦は1度限りではなく、これからも継続していくことが必要とされる。今後の活動についてはまだ明確ではないというが、佐原氏のなかでは、少なからず活動方針は見えているようだ。 「これから様々なサステナブルなパーツもまだ出て来ると思うので、それを使ってより良い成績を目指せるように、まだこのプロジェクトは続けていきたいと思っています。唯一決まっているのは『続ける』ということだけです」 「鈴鹿8耐にはおそらくまた来年も出ると思います。ですが、プラスアルファで例えば24時間耐久レースなど、どのように続けるかというところは可能性として探っていきたいですね。(全日本ロードレース選手権についても)検討するなかの一部として考えたいと思っています」と言及した。 未来のためにも環境に配慮したマシンを作りたいという強い思いから、鈴鹿8耐で実現した2年ぶりとなるスズキのワークス活動。彼らの本戦での走り、そして熱い想いを耳にすると、今後の活動にも期待が募る一方だ。スズキCNチャレンジのプロジェクトが、今後どのカテゴリーでどのように継続されて行くのか見届けていきたい。 [オートスポーツweb 2024年07月31日]