チョコを食べると恋をする? フェニルエチルアミンは本当に効果があるのか
2月14日と言えば……。2.14という数字の並びから「探査機ボイジャー1号が史上で初めて太陽系家族写真撮影を試みた日ですね」とか、「3.14(円周率)から1引いた数字ですね」とか、話し始めるのが日本科学未来館の科学コミュニケーターらしいと思われる方も多いことでしょう。 でも……。大学時代にショコラトリーで働いていたほどチョコレート好きな私としては、2月14日はバレンタインにあやかって、チョコレートについて語りたいと思うのです。今回は「チョコレートに含まれる成分は本当に恋に効くのか?」というテーマで解説していきます。
古くから「薬」として活用されてきたチョコレート。「かじると恋をした気分に」「天然の惚れ薬」など、媚薬効果がうたわれることもあります。しかし、実際のところはどうなのでしょう? 「恋愛×チョコレート」で注目される成分はさまざまですが、みなさんがインターネットで検索してヒットする情報の多くで、「フェニルエチルアミン」という成分が取り上げられているかと思います。
フェニルエチルアミンは「恋愛ホルモン」?
フェニルエチルアミン(phenylethylamine:以下PEA)は、チョコレートにも含まれている成分で、ネットで見つかるページの中には「別名“恋愛ホルモン”と呼ばれています」と書かれていることも少なくありません。なぜ恋愛ホルモンと称されているのでしょうか?
調べてみると、「さまざまな研究結果を総合して考えると、恋愛をしているときのトキメキに関わっている“かもしれない”から」ということが分かってきました。 ヒトの恋愛感情に関わる脳内ホルモンとしては「ドーパミン」「ノルアドレナリン」が候補(※1)とされてきました。このドーパミン、ノルアドレナリンの放出を促す成分といわれているのがPEA(※2)なのです。PEAはアンフェタミンというノルアドレナリンやドーパミンの放出を促す物質(※3)と形が似ていることからこういわれています。 また、PEAと恋愛との関係について、次のような記述がよく見られます。 ●PEAをヒトに与えると、気分が高まり、活力が湧いてくる ●“恋の病”を患っているヒトに抗うつ剤を投与したところ、PEAを代謝するタンパク質の体内濃度が下がった ●ヒトの尿に含まれている成分を調査したところ、熱愛中の男女の尿中にはPEA代謝物が多く含まれていたが、離婚したカップルでは少量しか含まれていなかった しかし、このように一般的な人や熱愛中の人たちを対象にしているような本で引用されている文献(※4~7)は、うつ病患者の方などを対象にした臨床観察結果ですし、データも古いです。さらに、 ●ヒトは恋をすると脳内からPEAを分泌する、またその分泌は永遠に続かず2~3年でなくなるため、恋は3年で冷めるのだろう(※8) といった記述もよく引用されていますが、残念ながら、今回はその根拠となるデータを見つけることはできませんでした。 以上のように、今回私が文献を見た限りでは、一般の人に当てはまるかどうかを判断することはできませんでした。従って、「PEAは恋愛のトキメキに関わっている“かもしれない”」と述べるにとどめるのが良いと思われます。 とはいえ、ここで話が終わってしまうと、チョコレートの話が出てこないので、今は確かではないけれども、仮にPEAが恋に関わる重要な成分だと解明されたとして話を進めていきたいと思います。