能登への思いを一皿にこめて。アルマーニ / リストランテ、レスピラシオンの共宴
その生産者とは、能登の玄関口・七尾の七尾湾に浮かぶ能登島で「NOTO 高農園」を営む高 利充(たか としみつ)だ。脱サラして能登島に移住し、有機農業を始めたのが2000年。食べ歩きの趣味が高じて、自分たちでレストランのためのおいしい野菜を作ってみようと農園をスタートさせた。現在は20ヘクタールの土地に、日本の伝統野菜と西洋野菜、ハーブ、エディブルフラワーなど約300種類を、農薬を使わず育てている。いまや100軒以上の全国のレストランに加えて、ホテルや百貨店へ野菜を卸しており、特に料理人からの信頼は絶大だ。 「地震直後、島と本土を繋ぐ2本の橋が不通になり、まさに“孤島”でした。水道、電気は通らず、ガスもダメでした。水道は4月にやっと開通したものの、個人宅に水を引き込むための作業をする業者さんの予約が難しく、今もまだ水道が復旧していない家が多いです。我が家はトラクターを動かすための軽油や畑のための水の備蓄があったので、スタッフと分かちあうことができ、それはよかったと思います」。 畑が6枚崩れたが、野菜づくりは1月10日から再開したと言う。 「9人のスタッフのうち、家が壊れたり、お連れ合いの転勤があったりで、ふたりほど辞めました。でも、どうにか週に3日、うちの野菜を発送することから仕事を再開しました。お給料を払うことができれば、うちの仕事を続けてもらえます。ただ、七尾の宅配便の営業所は機能しておらず、片道80km離れた富山まで、当初は4時間かけて野菜を運びました。最近は1時間半くらいかな。道路は今も崩れたままなので、うちのハイエースは3回もパンクしましたよ」。 半年近く経っても復旧がままならないものは多々ある。だが、「農園を始めたときと比べれば、畑はある。スタッフもいる。トラクターもある。お客様もいてくださる。ならば、まだやれるやろ。そう思ってます」と笑う。 輪島市や珠洲市など甚大な被害を受けた地域の人々や、いまだ家に帰れない人たちを思い、高はいままで自身の状況について、あまり声を上げてこなかった。「全国の取引先からご連絡をいただくのですが、最近、『もう普通に戻ったの?』という声が多く…。やはり、七尾をはじめ、能登島や農園の現状について発信していったほうがいいかなと思うようになりました。七尾には有名な和倉温泉という温泉地がありますが、旅館やホテルはほぼまだ営業を再開できていませんし、能登島の農家にも再開を諦めている方々がいます」。