生駒市、独自人材バンクで「学校の講師不足」解消 ターゲットを明確にした「広報戦略」も奏功
キャリアのある講師が多彩に活躍
50代前半のAさんは、他府県で正規教員として20年以上のキャリアを積んだ後、アメリカの大学で日本語アシスタントとして1年ほど勤務して帰国。改めて「これまでやってきた仕事で役に立ちたい」と考え、2年続けて奈良県の教員採用試験に応募したが、希望は叶わなかった。 「年齢的に難しいと感じた」というAさんは、たまたま知ったバンクに登録。市教委から連絡を受け、今年9月から常勤講師として市内小学校に勤務している。 「まずは特別支援学級のお手伝いから始め、現在は病休されている教員の方に代わり、学級担任を務めています。1人1台のデバイスが入るなど学校を取り巻く環境も変化しており、情報量の多さに対応するのに毎日慌ただしく過ごしていますが、学校は日々変化があって子どもたちの成長に伴走していくのは楽しく、毎日充実した時間を過ごしています」と、Aさんは話す。 現状の正規教員ではできない、ユニークな働き方をしている人もいる。 「幼稚園の預かり保育で採用された50代のBさんは、英語の教員免許も持っていました。ある中学校で急遽欠員が出た際、市教委から幼稚園とご本人に『代わりの方を配置しますのでBさんをください』とお願いし、英語の常勤講師として入っていただきました。さらに今年度は、2校の小学校で英語専科の非常勤講師として勤務していただいています」(杉山氏)
多様な働き方が認められる学校運営が必要
一方、課題もある。登録は多いが、常勤希望者が少ないのだ。非常勤は、校務分掌や委員会・クラブ、学校行事などの仕事は担当できず退勤も早い。非常勤の人材を活用するには、校内のマネジメント力が求められる。 「本市に限らず今後は非常勤の活用が増えていくと思います。そうなると、週5フルタイムで働ける人が前提ではなく、『週3回、14時まで』といった方々の多様な働き方が認められる学校運営が必要でしょう。時間割の組み方や先生の配置、情報共有の工夫はもちろん、チーム担任制や教科担任制なども含めていかにワークシェアリングしていくかが重要になると思います」(杉山氏) 奥田氏は、校長の視点からこう語る。 「非常勤の業務拡大ができれば、正規教員の負担軽減はもっと進むと思います。また、本市でも管理職不足が深刻化しているのですが、学校長が欠員補充に走り回っている姿を見ていたらそうなりますよね。管理職の業務の平準化も必要な状況にあります。人材不足の課題を過度に管理職に負わせないという意味でも、本市のバンクは有効だと思います」(奥田氏) また、教員免許保有者でもブランクがある、経験が浅い、未経験だといった場合、いきなり授業をするのは不安だという登録者も多い。そうしたケースについては、「まず特別支援教育支援員やスクールサポートスタッフといった職種で学校に入っていただき、慣れてきたタイミングで非常勤講師や常勤講師といった仕事に切り替えていただくようにしています」と杉山氏は説明する。 さらに市教委では、講師が学校現場にスムーズに入れるよう、今年12月から「いこま教師塾」も開講。参加費は無料で、バンクの登録者、または特別支援教育支援員やスクールサポートスタッフとして働いている人を対象としている。未経験やブランクのある状態から非常勤講師・常勤講師として働くようになった先輩教員らとの座談会や、小中校の学校見学を実施。ほかにもICT機器の使い方に関する簡単な講座、授業づくりの基礎的な研修講座などを行っている。 本来、代替教員の配置は都道府県教委の業務だ。ただ、そうは言っても都道府県教委は広域のため、「近所の学校で働きたい」というニーズへの対応や、小中学校の日々変わる状況、校長との距離などを考えると、対応には限界もある。だからこそ、「教員定数が変わらない中では、市町村教委で潜在教員を掘り起こしていくことが教員不足の解決になる」と杉山氏は言う。 「登録バンクはどこの自治体でもできる仕組みで、実際、県内のほかの自治体も似た形で始めたという話を聞いています。都道府県教委は、学校の魅力発信や講師登録を増やす取り組みをするよりも、各市町村が教員不足を解消するための支援に徹するほうが効果的だと考えます。例えば、各市町村で配布できるようなポスターやチラシのテンプレートの提供、LINEなど簡易な登録システムの運用ノウハウの共有、マッチング方法の事例の共有といった支援ができるはずです」(杉山氏) (文:國貞文隆、注記のない写真:ペイレスイメージズ1(モデル)/PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部