5歳年上の藤壺へ思いを寄せる『源氏物語』源氏。元服後、無理に迫るほどの恋情に対して藤壺が告げた言葉はなんと…
◆帝の妃であるという立場 藤壺は、たとえわが身を夢としても、世間の噂話として人が語り伝えるのではないでしょうか、というのです。 ここには、帝の妃であるという立場が強く意識されています。 源氏との個人的な関係だけにとどまることは許されないという、藤壺の冷静な判断です。 しかし、この出来事によって藤壺は懐妊し、世間的には桐壺帝の皇子を出産します。 皇子はやがて、朱雀帝(すざくてい)時代の皇太子となります。藤壺は、皇子の皇太子としての地位を守るために、大変な犠牲を払うことになります。
◆源氏と藤壺の罪 やがて皇子は冷泉帝(れいぜいてい)として即位し、源氏は冷泉帝から、太上天皇に准じる位を与えられることになります。 源氏の名誉は、藤壺との私的な愛情を起点としてもたらされました。しかしそのおおもとには、源氏の犯した罪があることも事実です。 そして藤壺もまた、その罪に関わってしまったのです。 ※本稿は、『美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
松井健児
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