5歳年上の藤壺へ思いを寄せる『源氏物語』源氏。元服後、無理に迫るほどの恋情に対して藤壺が告げた言葉はなんと…
現在放送中のNHK大河ドラマ『光る君へ』。吉高由里子さん演じる主人公・紫式部が書き上げた『源氏物語』は、1000年以上にわたって人びとに愛されてきました。駒澤大学文学部の松井健児教授によると「『源氏物語』の登場人物の言葉に注目することで、紫式部がキャラクターの個性をいかに大切に、巧みに描き分けているかが実感できる」そうで――。そこで今回は、松井教授が源氏物語の原文から100の言葉を厳選した著書『美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』より一部抜粋し、物語の魅力に迫ります。 【書影】厳選されたフレーズをたどるだけで、物語全体の流れがわかる!松井健児『美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』 * * * * * * * ◆藤壺の言葉 <巻名>若紫 <原文>憂き身をさめぬ夢になしても <現代語訳>つらいこの身をさめない夢のなかのものとしましても 桐壺帝は最愛の女性である桐壺更衣を亡くして、悲しみの底にありましたが、先帝(せんだい)の4番目の姫宮が亡き更衣にそっくりだと聞き、とくに願って入内(じゅだい)を実現させました。藤壺(ふじつぼ)の宮です。 藤壺は帝の内親王ですから、女性としては最高位の生まれです。これによって、桐壺帝・藤壺・源氏という架空の親子関係がうまれました。 3歳で実の母である桐壺更衣を亡くした源氏は、母に似るという藤壺を慕い、桐壺帝もこれを許しました。
◆源氏の恋情 しかし、源氏が元服することによって、この架空の家族関係は終わります。成人した源氏はもはや御簾(みす)をへだててしか、藤壺と対面できず、じかに声を聞くこともできません。 藤壺は源氏より5歳年長の女性でした。近衛府(このえふ)の中将となった17歳の源氏は、心の内に、深く藤壺への思いを宿す青年となっていました。 源氏が18歳の夏、藤壺は宮中から、自邸である三条宮(さんじょうのみや)に下がっていました。そこへ源氏は、無理に忍び入ったのです。 しかし源氏は、ようやく逢うことができた藤壺を見ても、現実のこととは思えないほど、思いつめていました。 気高く品格に満ちた女性でありながら、可憐でやさしく、完全な女性――欠点のないことが、かえって恨めしいとさえ思うのでした。 源氏は「こうしてお逢いしても、再びお逢いできるかわからない、夢のような逢瀬(おうせ)ですから、いっそこのまま、この夢のなかに消えてしまいたい思いです」と、恋情を訴えます。 それに対する藤壺の応(こた)えが「つらいこの身をさめない夢のなかのものとしましても」でした。
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