黒ペンひとつで質感伝える 東京・根津にギャラリー、細密ペン画家の杉山浩一さん TOKYOまち・ひと物語
東京都文京区根津にギャラリーを構える杉山浩一さん(61)はペン画のアーティスト。その精巧さは写真と見まがうほどだ。実は杉山さん、お菓子メーカーや料理人など紆余曲折を経てペン画にたどり着いた。表現するのは受け手のイメージが膨らむモノクロの世界。今は亡き父から受け継いだ技術に磨きをかけ、制作を続けている。 【写真】制作に非常に時間がかかるので構図は徹底的に練るという杉山浩一さん 「手帳とかに小さい文字を書くためのペン。絵を描くためじゃないんですよね」 黒ペンひとつで微細な風景を浮かび上がらせる「細密ペン画」。杉山さんはパイロット社製のボールペン、「ハイテックC」を片手にそう話す。赤みや青みが混じらない、極めて純度の高い黒色が特徴だといい、ペン先が0・3~0・5ミリのものを主に使用している。 ■紆余曲折を経て ただのペンだが、技は多彩だ。角度やスピード、微妙な力加減でさまざまなタッチを表現していく。インクを乗せるのは水彩紙。表面の凹凸のおかげで柔らかい線が引けるのだという。重厚感のある鉄骨から、風を受けるススキまで自由自在だ。「調整して、使い分けて、重ねれば、何種類も線は描ける」。鋭いペン先が紙を削る「カリカリ」という音も、線によって微妙に違ってくる。 父の八郎さんは、建築機械の断面図や家電製品、自動車などを受注してエアブラシを使って描く画家だった。浩一さんは幼少期から父の色鮮やかな作品に触れ、憧れた。 グラフィックデザインを学ぶため専門学校に進み、卒業後はお菓子メーカーでパッケージデザインなどを担当していたが、長くは続かなかったという。「暗室での作業が多かった。1日目からいやになっちゃって」 そこで好きだった料理の世界に飛び込み、野菜洗いに始まり、住み込みでの修業も経験。15年の下積みの末、大田区に和食の店を開いた。 ■余計なものを省く 平成21年ごろ、不景気や八郎さんの病気をきっかけに、店をやめた。活動の場をペン画に移していた父の跡を継ぐことを意識するようになり、作品展の開催や販売経路の拡大を手伝い始めると、徐々に自分でもペン画を描くようになり、その深みにはまっていったという。 「ペン画の作品の良さをお客さんに伝えるためには自分でも経験しないと、と思った。父の作業机の隣で片手間に描き始めたら面白くて、僕の作品制作時代が始まったんです」