〈選択的夫婦別姓〉嫁ぎ先でのお酌、配膳、セクハラに打ちひしがれた女性が「すべての元凶は望まない改姓にある」と考えるワケ
人生二つ目の楔
2016年のこと。現在の夫が腫瘍の摘出手術を受けることになったとき、2度目の楔が打ち込まれた。 お互いに改姓を望まず事実婚の状態であったことにより、手術の合意書にサインができなかったのだ。 「病院スタッフの『家族ではない方に署名はしていただけません』という言葉はいまだに忘れられません。 法律婚していないと家族と認められないのかと…。これが決定的に『嫌だな、ダメだな』と思った瞬間でした」 手術を終えた夫の病状説明も、遠くから来てもらった夫の母親の同席がなければ受けることができなかった。 窮地に追いやられた井田さんと夫は、急遽法律婚について話し合った。 「考えてみたら、私が姓を変えたくないと言ったら、相手が変えなきゃいけない。でも、そうしたら今の夫に元夫の名字を名乗らせることになるんですよね…。 生まれ持った名字じゃないものを何で2人して名乗らなきゃいけないんだという疑問があって、じゃあもう一度私が変えるしかないかと…。 以前から国は旧姓使用できるとの触れ込みだったので、そこまでの影響はないのではないかと、なんとか自分を納得させました」 だが、蓋を開けたらとんでもない現実が待ち受けていた。 「初婚の学生結婚とは違い、40代の子連れ再婚では、大量の名義変更に振り回されました。旧姓使用は結局、二重氏名の使い分けを逐一確認しなければならないので、人事・経理・総務などにも毎度迷惑をかけます。 『おかしい』と感じて調べてみたら、法律によって強制されるのは世界中で日本だけという事実を知って驚愕しました。 自分の困りごとにぶち当たってから過去を振り返ってみて、元夫の父親の家紋の入った喪服を作られたのも、親族の集まりで“嫁”が配膳やお酌をするのを当然とされたのも、男性親族からのセクハラも、あれもこれも女性蔑視の“家”意識から来ていたのだと気がついたのです。 名字を変えたことで“家の嫁”とされたのだと、目から鱗が落ちたのが今の活動をするきっかけになったんです」 井田さんはTwitter(現在のX)に改姓の苦痛に関するつぶやきを投稿し始めた……。 取材・文/旦木瑞穂
旦木瑞穂