ロシアが核戦略見直し決定、使用の歯止め外れることに懸念 その背景は、対ウクライナで核攻撃の可能性は?
米国などがウクライナに対しクリミアなどへの米供与兵器攻撃を認めたことを受け、ロシアが態度を硬化。核兵器使用の原則を定めた軍事ドクトリンの見直しの動きを強めている。核使用の歯止めを外すことにつながる動きに懸念が高まるが、その背景などについてロシアの安保問題に詳しい畔蒜泰助(あびる・たいすけ)笹川平和財団上席研究員に聞いた。(共同通信=太田清) 【写真】ロシアが核攻撃に踏み切ったらアメリカはどこに報復するか? 米政権内で行われていた机上演習の衝撃的な中身
―ロシアの軍事ドクトリンは現在、核などの大量破壊兵器で攻撃された事態のほか、たとえ他国による通常兵器による攻撃であれロシアが「国家存続の危機」に立たされた場合、核攻撃を行う権利があると規定しているが、その見直しを巡る動きがあると伝えられている。 「プーチン・ロシア大統領は昨年10月、(南部ソチで開かれた国際討論フォーラム)ワルダイ会議でドクトリン見直しの必要性について聞かれ『その必要はない』と答えていた。しかし、今年6月のサンクトペテルブルク国際経済フォーラムでは『今は必要ではないものの、状況が変われば、(見直しの)可能性は否定しない』と立場を変えている」 「その後、(核不拡散・軍備管理を担当する)リャプコフ外務次官が見直しの可能性に触れ、ペスコフ大統領報道官は見直しのプロセスを始めたと公式に認めた」 「さらに、プーチン氏が発言した国際経済フォーラムのセッションは、セルゲイ・カラガノフ氏という政治学者が司会したが、彼は1年前に『核先制使用』の必要性を唱える論文を発表し大きな波紋を呼んでいた。同氏が司会に立ったこと自体が、ロシアが欧米に送ったシグナルとも言える」
―なぜ今、見直しの動きが出てきたのか。 「ロシアは、欧米がウクライナ支援を強化し、供与兵器によるクリミアなどへの攻撃を容認する姿勢を示していることを軍事的エスカレーションとみなしている。核のドクトリン見直しは、核使用の条件を柔軟化する姿勢を見せることで、こうしたエスカレーションに対抗する狙いがある」 「ロシアがすぐに核兵器使用の準備をしているとは思わないが、欧米のエスカレーションをロシアとして適切に『管理』していきたいという意向があるのは間違いがない」 ―ロシアは一方で、停戦交渉の用意があると繰り返し強調している。2022年2月に始まり、トルコのイスタンブールなどで行われたロシアとウクライナによる停戦交渉を経て、双方が基本合意したとされる「イスタンブール・コミュニケ」を土台にした交渉を主張している。 「米誌フォーリン・アフェアーズは4月に、『戦争を終わらせたかもしれない交渉』との記事を掲載した。それによると、『イスタンブール・コミュニケ』はウクライナが北大西洋条約機構(NATO)加盟を放棄し永世中立国となることと引き換えに、国連安保理の5常任理事国やドイツ、トルコなどの関係国がウクライナの安全保障を提供するとの内容が骨子となっており、ロシアとウクライナはある時点で、ほぼ合意に達していたという」