「残り15%のこだわり」を妥協したら、「ソニーではなくなってしまう」…最高幹部が「重視する」、一見「矛盾」している「2つの鉄則」
「人を超えるAI」は面白くない
なかでも、ソニーとして独自性が高いのはゲームとの組み合わせだ。 Sony AIは2022年、レースゲーム「グランツーリスモ」を使ってゲーム用ドライバーAI「Gran Turismo Sophy(GT Sophy)」を開発し、2023年秋から、「グランツーリスモ7」中に、実際にドライバーAIとして組み込んでいる。 北野CTO「実際にゲームを使ってAIに学習させる、というのはソニーらしいですよね。GT Sophyで学んだのは、「人を超えるAI」を作るのは難しくない、ということです。 でも、そんなAIとゲーム内で走っても面白くない。一緒に走って楽しいAIをどう作っていくのか、現実に近いコンペティター(競合者)としてのAIをどう作っていくのかは、新しい課題です」 しかもゲームの場合、スムーズな表示を実現するため、処理は60分の1秒単位でおこなわれている。AIの判断も同様だ。「AIが入ったから表示がコマ落ちする」のでは本末転倒だからだ。 GT Sophyについても、山内さん(グランツーリスモ・プロデューサーの山内一典氏)が「ゲームが楽しくなるもの」としてOKを出すまで実装できませんでした」 ゲームを長くプレイしている人からすれば、「ゲーム内で人間の代わりに動く“AI”なんて昔からあるじゃないか!」と思うかもしれない。 しかし、ここで北野CTOがいうAIは、そうした既存のゲームAIとは異なるものだ。
北野CTOが考えるAIとは?
従来のゲームAIは、「特定のゲーム専用にプログラマーが命令を作り上げたもの」である。人間がゲームをするときとは異なり、人間には開示されていないゲーム内のパラメータを利用して、「ズル」をしながらプレイすることもある。目的はあくまで「特定のゲーム内でプレイヤーを楽しませること」だから、そういう作りでもかまわないからだ。 だが、北野CTOのいうゲームAIは、「人間と同じ条件でゲームをプレイするもの」を指している。特別な情報を与えられ、人間と違うかたちでプレイするわけではない。GT Sophyも同様だ。 したがって、そのAIを別のゲームに持ち込むことも考えられる。GT Sophyはレースで学習したAIなのでレース以外はできないが、学習に使ったものと、ゲームに実装したものとでは「別のグランツーリスモ」が使われている。 それでもすぐに使えるのは、「画面情報」「車の操作」といった、プレイヤーが使っている情報をそのまま使って走るものであり、特定のソフトウエアに特化しているわけではないからだ。