クマ駆除に「お前が死ね!」と抗議 愛護団体に現役ハンターが本音「究極的には分かり合えない」
何もしなければおよそ8年で倍増…「10年後には手がつけられなくなる」
昨年の被害状況を受け、今年4月に鳥獣保護管理法が改正。絶滅の恐れのある四国の個体群を除き、新たにクマ類(ヒグマ及びツキノワグマ)が指定管理鳥獣に追加された。指定管理鳥獣とは、集中的かつ広域的に管理を図る必要があるとして、国や都道府県による事業の対象となる動物のこと。今後は調査や捕獲などに国から交付金が支給され、問題個体だけでなく、個体数調整のための広域的な駆除も可能になる。増え続けるクマ被害に対抗するためには、妥当な措置ではないかと石名坂氏はいう。 「クマの自然増加率は10%程度とされており、1.1の8乗で2.14、何もしなければおよそ8年で倍増する計算です。シカの増加率はさらに倍の20%、およそ4年で2倍に増える。東京都だってもう危ない。うかうかしていると、10年後には手がつけられなくなります。一時はクマを絶滅寸前まで追い込んだと言われる春グマ猟は、極めて効率のいい猟法。やりすぎは禁物ですが、当時の猟を知る高齢ハンターが生きているうちに、ノウハウの継承だけでもしておかないと手遅れになる可能性があります」 近年では、動物愛護団体による駆除への抗議活動も度々問題となっている。2010年に斜里町中心街に出たヒグマの駆除では、丸3日間、町役場への抗議の電話が鳴りやまなかったという。 「『お前が死ね!』とまで言われた職員もいたそうです。また、一般猟友会員でなく知床財団職員がヒグマを駆除した場合、『結局は食べたいから殺すのか』と批判が寄せられる可能性があるため、大型のオスの成獣350キロの肉をすべて廃棄したこともあります。命を無駄にしないことは大切なはずで、自分でもこの対応はどうかしていると思う。愛護の方たちの行動原理は理屈じゃなく感情。気持ちは分かりますが、究極的には分かり合えない」 自然界には、生態系のバランスを保つ仕組みが最初から備わっているとみる考え方もあり、適正な個体数を維持するために人間が介入すべきという考えには賛否両論があるのも事実だ。答えのない問いについて、どのように考えていくべきなのか。 「人間が自然に関わるべきでないというのは、それ自体が傲慢(ごうまん)な考えではないでしょうか。高度経済成長で一気に環境破壊が進んだことで、人間の影響力の大きさから自然に手を加えてはいけないという考え方が広まりましたが、化石燃料を使い始める前から燃料として大量の木を切り、野生動物を狩って食糧にしていた。さかのぼれば石器時代から、生態系のバランスは人間による一定の圧力があるなかで保たれていたはずです。過度な獲り過ぎは禁物ですが、人間も自然の一部として、自分たちの生活を守るために他の野生動物を狩ることは、生き物としてのあるべき姿だとはいえないでしょうか」 クマは犬なみに知能が高いといわれ、愛嬌のある仕草から童話の題材にも選ばれるなど、人にとっても身近な存在だ。一方で鋭い牙と爪を持ち、人を簡単にあやめてしまう猛獣でもある。2つの側面を持つ隣人とどう付き合っていくのか。感情論ではなく、冷静な議論が求められている。
佐藤佑輔