新関脇として大関昇進を目指す、大の里の素顔。初土俵から7場所「最速優勝」果たした愚直な青年の軌跡
場所を重ねるごとに課題をクリアし、初の金星。そして初優勝。
初場所後、元旦の地震で被災した故郷を幕内・遠藤、十両・輝と訪問した。その時の感慨で大の里は目覚めたという。 「被災地に行って、お相撲さんの力を教えられました。自分たちが羽織袴を着て避難所に入った途端に、大勢の方々が泣き出された。プロ野球選手やサッカー選手が行ってもワーッと騒がれるでしょう。でもそういう雰囲気にはならないんじゃないか。それがお相撲さんの力なんだと」 夏場所は初日に横綱と対戦し雪辱、初の金星を挙げて勢いをつけた。前の場所の経験を早速生かしている対応力に目を見張る。そして初優勝。プロ入りしてから、実は思いがけない敗戦もあった。日体大の先輩で小兵の石崎(現朝紅龍)にはデビュー戦で敗れた。次の場所も敗れ2連敗を喫している。動きの俊敏な力士に土俵際でかわされる相撲も目立った。 果たして対応できるのか。ファンである私はかなり不安も感じたが、場所を重ねるごとにそうした課題をクリアし、そんな弱点などなかったかのような相撲っぷりに一変している。一つ一つの敗戦や試練から大きな糧を得て、その吸収力、学ぶ力をプロ入り後に見せられ、頼もしさを感じている。 名古屋場所では、優勝後の忙しさで十分な稽古ができなかった不安がある。メディアやファンの注目も圧倒的に増し、環境も激変している。そんな中、万全の体調、集中力で臨めるかが最大の焦点となるだろう。対戦相手も徹底的に研究し、対策を練って戦いに臨んでくる。 課題という意味では、3場所続けて投げ飛ばされ、土俵に転がされている大関・豊昇龍との対決が注目だ。今度こそ、大の里が豊昇龍を圧倒するか。また同じ負け方をするのでは、大関の声は遠のくだろう。先場所苦杯を喫した高安、平戸海との対決も含め、楽しみは尽きない。 <了>
文=小林信也