はやぶさ2の歴史的快挙 アクシデントも乗り越えた、徹底した計算と訓練
回収班は出発前に日本で1週間の自宅待機、1週間の自主隔離をした。さらに、オーストラリア到着後も2週間の自主隔離も実施し、万全を期した。アデレードでの自主隔離中は、オンライン会議を重ね、結束が強まったという。しかし、予想外だったのは酷暑だ。中澤さんは作業ができない恐れがあったと振り返る。 「カプセル探索用のアンテナを設置する日に気温が大幅に上がって、45℃を超えました。45℃を超えるとオーストラリア国防省のルールで作業禁止となるのです。そのため、気温が上がる前に、休憩と水分をこまめに取りながら作業を進めました」
「100点満点で1万点」という完璧な運用
こうした万全の備えもあり、回収班は無事にカプセルを発見し回収することができた。それから52時間ほどで、神奈川県相模原市のJAXA相模原キャンパス内に設けられた地球外試料キュレーションセンターへカプセルを無事に運びこんだ。サンプルの入ったコンテナを開封してみると、中には数ミリもの大きさの岩石がたくさん入っていた。
コンテナの開封をおこなった澤田さんは、そのときの様子を興奮気味に語る。 「開けて中を見てみると、言葉を失うくらいサンプルが入っていました。予想を超えて感動するほどです。イメージしていた量よりはるかに多かったので、本当にびっくりしました」 はやぶさ2が持ち帰ったサンプルの量は、目標の0.1gを大きく超え、5.4gに達していた。さらに、サンプルからはガスも出ており、それも漏らさず回収していた。地球外の天体からガスを持ち帰ったのは世界初のことだ。 はやぶさ2はカプセル分離後、新たなミッションに向けて地球を離れた。カプセルがJAXAに運びこまれたとき、津田さんは6年間のミッションについて、「100点満点で1万点」とするほど、完璧な運用だった。それは徹底した準備やシミュレーションがもたらした成果だった。津田さんはこうまとめている。 「はやぶさ2は完璧な状態で帰ってきて、惑星間往復飛行を完成させたといえます。当初、リュウグウに着いたときは、(過酷な地形を目の当たりにして)絶望の淵に立たされましたけれど、そういう小惑星だったからこそ、いいチームワークが育まれ、たくさんの問題を解決できたのだと思います」
荒舩良孝(あらふね・よしたか) 1973年、埼玉県生まれ。科学ライター/ジャーナリスト。科学の研究現場から科学と社会の関わりまで幅広く取材し、現代生活になくてはならない存在となった科学について、深く掘り下げて伝えている。おもな著書に『重力波発見の物語』『宇宙と生命 最前線の「すごい!」話』『5つの謎からわかる宇宙』など。公式note