はやぶさ2の歴史的快挙 アクシデントも乗り越えた、徹底した計算と訓練
3カ月後の7月11日には、その人工クレーターの近くに2回目のタッチダウンをした。着陸場所は、人工クレーターを作製したときに掘り起こされた地下物質がたくさん降り積もっていた領域だ。このタッチダウンで、リュウグウの地下物質を採取したとみられている。 はやぶさ2が成し遂げた数々の成果は、世界でも注目された輝かしいものだった。そして11月13日にリュウグウを離れ、1年かけて地球まで戻ってきた。 結果だけを見れば、はやぶさ2の探査はとても順調なものだった。しかし、これらの成功はJAXAのプロジェクトチームによる入念な準備や徹底した訓練によってもたらされたものだった。
1万回を超える計算と念入りな訓練
リュウグウの地形は、はやぶさ2が近くに行くまでは全くわかっていなかった。そのため、到着する前から、コンピューター上で仮想のリュウグウを作成し、すばやく着陸点を選定する訓練や、本物のはやぶさ2を操作するように実際の時間とおなじ時間をかけて仮想リュウグウに下りていく訓練などを繰り返していた。 実際にリュウグウへ降下したり、着陸したりするには24時間以上かかるので、訓練も本番同様に24時間の3交代制でおこなわれた。ときには30時間以上かかることもあった。プロジェクトチームはこのような訓練を70回以上繰り返した。リュウグウの地形が明らかになった後は、実際の地形データを使って同様の訓練を50回ほどおこなっている。 はやぶさ2のプロジェクトマネージャ、津田雄一さんはこう語っていた。 「何をやったら危険で、探査機の限界がどこにあるのかも十分にわかっていました」
訓練を繰り返すことでプロジェクトチームは探査機の性能をしっかりと理解し、アクシデントが起こっても柔軟に対応できるようになっていた。例えば、1回目のタッチダウンのときには、はやぶさ2がリュウグウに向けて降下する直前に位置情報の間違いが見つかり、降下を一時停止している。 このとき、最悪のシナリオとして、タッチダウン運用の中止も津田さんは考えたという。だが、チームはすぐに原因を究明し、タッチダウンに向けた3000項目に及ぶはやぶさ2への指令を5時間かけてやり直し、予定通りの時刻にタッチダウンすることができた。 訓練の徹底はカプセルの放出でも同様だった。カプセルは最終的にウーメラの短径100km、長径150kmの楕円の領域に着地させることになった。そのため、はやぶさ2は地球から350万km離れた場所で、ウーメラ上空に設定した半径10kmの的に当たるように軌道変更する必要があった。これは「1km先にいるテントウムシを狙う」ほどの正確さを要する作業だ。 その後、はやぶさ2の軌道はさらに精密に変更され、「テントウムシの斑点を狙える」レベルになった。津田さんは、カプセルを目的地に着地させるために、事前に何度も計算を繰り返したと語る。 「1回の計算で5000ケースを想定して、そのどれもが大丈夫か判定するのですが、その計算を少なくとも数百回はやっています。打ち上げ前からのものを入れると1万回は超えると思います」