はやぶさ2の歴史的快挙 アクシデントも乗り越えた、徹底した計算と訓練
2年前からの回収班の準備
カプセルの回収班も準備を怠らなかった。班が発足したのは2018年の初めで、はやぶさ2がリュウグウに到着する半年も前だ。探査の運用に関わるメンバーを削るわけにはいかなかったため、JAXA内の他の部署や外部の大学や企業の人たちに協力してもらい、回収班を編成していった。リーダーの中澤さんはこう話す。 「はやぶさ2が帰ってくる2年前に、オーストラリアで現地調査をして、1年前にはリハーサルをすることを決めていました。だから、2018年の初めにはチームを立ち上げる必要がありました」 カプセルを安全に回収するためには、植物があまり生えておらず、人の住んでいない広いエリアが必要だった。条件を満たしていたのが、オーストラリアのウーメラ管理区域だった。 JAXA宇宙科学研究所副所長で、回収班の一員としてウーメラに同行した藤本正樹さんは、決め手は広さだけではなかったと振り返る。 「カプセル回収地は、日本からアクセスしやすいとか、いろいろな条件がありますが、最後は地元の理解が大切になります。今回は地元の方々がとても協力的でありがたかったです」
カプセル回収には、オーストラリア政府から着陸許可を得なければいけない。申請書類のやり取りは2019年8月ごろから始まっていた。だが、2020年に入って予想外の出来事が発生した。新型コロナウイルス感染症の世界的な流行だ。
コロナ禍での豪州での回収へ
各地で被害が拡大するなか、国を越えての移動は大幅に制限されるようになった。オーストラリアは3月20日21時から、原則すべての外国人の入国を禁止した。 頭を抱えたのがJAXAの回収班だった。カプセル回収には海を渡り、現地で作業をする必要がある。回収班は、2年間かけて準備を重ねてきた。慣れていない人が作業をすると、カプセルの発見が遅れたり、サンプルの入ったコンテナを壊したりして、採取したときの状態を保てない恐れがあった。一時ははやぶさ2のカプセル放出を数年遅らせることまで検討されたという。 「探査機は既に6年ほど運用していて、いつ何が起こるかわからないという心配は常にありました。条件をクリアできるのであれば、予定通りカプセルを回収したいと強く思っていました」 中澤さんはこう振り返る。 最終的には、予定通り12月に行うことになった。オンライン上の会議などで要望を伝え、8月6日にはオーストラリア政府からカプセルの着陸許可を得ることができ、また、特例の入国も認められた。 当初、回収班は100人を超える規模だったが、73人に絞った。回収班は望遠鏡、ビーコン信号の受信、マリンレーダー、ヘリコプター、ドローンなどさまざまな方法でカプセルを探索する。探索やその後の輸送に支障をきたさないようにするには最小限の人数だった。