「見切り発車」の後発地震注意情報 新情報への依存度を下げることが真の巨大地震対策だ
政府のガイドラインどおりの行動がとれるのか?
政府が11月に公表したガイドラインでは、この「情報」が出た時の住民の対応として、平時からの備えの再確認」(家具の固定、避難場所や経路、備蓄、家族との連絡手段)や「すぐに避難できる準備」(服装、非常用持ち出し袋、屋内の安全な場所で生活)などを行うとしている。ただ、事前の避難までは求めることはせず、鉄道も平常通り運行し、学校なども休校にはならない。 しかし、もし「A」のように「『情報』が出たらほぼ確実に(巨大地震が)発生する」と認識している人はガイドラインに書かれたような行動を取ることができるだろうか。家具の固定を再確認している場合ではないと考えるかもしれない。心配で子どもを学校に向かわせられないかもしれない。もしかしたら、食料品や水などの急激な買い占めをするかもしれない。
「オオカミ少年」効果への懸念
さらにいうと、懸念すべきことは「A」と答えた人だけでなく、正解である「D」を選んだ側にもある。というのも、「『情報』が出ても100回に1回『しか』巨大地震は起きない」と考える人が出る可能性があるためだ。 過去の地震発生状況などから、この「情報」はおよそ2年に1回程度の頻度で発表されることが想定されているという。「情報」が発表されても後発地震が発生しない、という状況がたびたび繰り返されることも十分考えられる。むしろ、ほとんどの場合はそうなる。“誤報”(この「情報」の場合は誤報ではないのだが)を繰り返すことで信頼度がなくなる「オオカミ少年」効果によって、「どうせ今回も地震は起きないよ」と考える人が増えてもおかしくないのではないか。 内閣府(防災)は「情報発信時に地震が起こらなかった場合でも、『空振り」と捉えるのではなく、防災訓練や防災意識の向上につなげる『素振り』と捉えましょう」としているが、それは果たして言葉でいうほど簡単なことなのか。人々の意識だけの問題にしてしまっていいのか。 このほかにも、実際には日本海溝・千島海溝の巨大地震が「情報」を出す機会もなく、突発的に発生することは十分ありうることなのに、「日本海溝・千島海溝の巨大地震の前に必ず『情報』が出るので、情報が出てから備えればいい」という誤った認識を持つ人が出る可能性なども考慮したほうがよいかもしれない。または「南海トラフ、首都直下、日本海溝・千島海溝の地震だけが切迫度が高いらしいが、うちは関係ない」などと安心する他地域の人が出るかもしれない。
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