タップ拒否に「侍魂。本当の男」称賛声も…なぜ朝倉未来はRIZINで柔術“鬼神”の三角絞めに失神敗戦し引退を口にしたのか?
総合格闘技イベントの「RIZIN.28」が13日、東京ドームで9731人の観衆を集めて行われ、メーンのスペシャルワンマッチではYouTuberとして180万人の登録者数を持つ格闘家、朝倉未来(28、トライフォース赤坂)が、“柔術界の鬼神”静岡県磐田市在住の日系ブラジル人、クレベル・コイケ(31、ボンサイ柔術)に2ラウンド1分51秒、三角絞めで敗れプロ18戦目にして初の1本負けを喫した。タップはせず衝撃の失神負け。試合後の会見で「引退も含めて今後のことを考える」と引退をほのめかした。バンタム級GPトーナメントの1回戦をパウンド8連発で渡部修斗(32、ストライプル新百合ケ丘)にTKO勝利した弟・海(27)、RIZINバンタム級王者の堀口恭司(30、ATT)、榊原信行CEOらは揃って「引退するな」の声を上げたが、元々30歳で引退すると発言していた異色のファイターは、どんな決断を下すのだろうか。
「朝倉は侍スピリットを持つ本当の男だった」(クレベル)
東京ドームを悲鳴が包む。 2ラウンド。朝倉未来はコーナーでグラウンドに引き込まれて、下から右腕をつかまれると、まるで軟体動物のように首に足を絡められた。ボンサイ柔術必殺の三角絞め。朝倉はもう動けない。1秒、2秒、3秒…。「タップの選択肢はなかった」。試合前に公言していた通りに敗戦の意思表示をする手段を放棄していた朝倉は意識を失っていた。タップの動きに注意を払っていた和田良覚レフェリーは朝倉が力なくうなだれたことに気づくと、あわてて間にわけ入って1本を宣告。クレベルが、三角絞めを解くと、朝倉は瞳孔を開いたまま上を向いて失神していた。壮絶なフィニッシュである。 クレベルも心配して駆け寄った。 ネット上ではタップしないことに対してクレベルが「壊れちゃう」と朝倉を怒ったとの噂も流れたが、会見では、「(試合前の話通りに)本当にタップをしなかった。タップをしないと壊れちゃうと教えている。彼には侍スピリットがある。本当の男だよ」と、朝倉の男の生き様を称えた。 朝倉は「引き込み対策はできている」と自信を持っていた。1ラウンドに、飛びつかれ下から寝技に引き込まれたが、ここでは胴を両手でクラッチし体を密着させ、柔術の技を封じこめた。腕を取られ三角絞めを狙われそうになったが、中途半端な姿勢は取らず、振り切るように立ち上がって回避した。だが、この2ラウンドは「コーナーに(クレベルの体を)押し付けた。あそこからは(スペースがなくて三角絞めに)入ってこないと思っていた。でも入ってきた。あまり覚えていないが油断した」という。 柔術黒帯のクレベルに三角絞めを決める場所は関係なかった。 「コーナーでもいつも決めている。スペースのあるないは関係ない。朝倉のミス」 研究家の朝倉は、事前に「1000回は映像を見た」と語っていたが、クレベルの実力を過少評価していたのかもしれない。 朝倉は完敗だったわけではない。勝機はあった。 1ラウンド、2分にかかろうとしたとき、グラウンドの攻防から、立ち上がりざま、朝倉が左フックから右フックをぶちこみ、クレベルの足がよろけたのだ。続けてボディを狙った左のミドルに日系ブラジル人は顔をしかめた。だが、朝倉はラッシュをかけなかった。慎重に距離を取り、打撃戦から仕切り直したのである。ガードの上からのハイキックでクレベルがロープに下がるほどのダメージがあったにもかかわらず深追いをしなかった。 「目が死んでいなかった。いきすぎると危ない。寝ても大丈夫な強さがあるので、こっちがうかつに入れない。(ここまでの数分で)強さがよくわかった。効いていたのは分かっていたが、完全に戦意喪失していなかったので」とは、朝倉の説明。 クレベル自身も「バランスを崩しただけ。問題はなかった」と振り返ったが、明らかに動きは鈍っていた。 あくまでも結果論だが、ここで勇気をもって勝負をかけることは、無謀な選択肢ではなかっただろう。2日前のオンライン会見で「根性がある方が勝つ」と語っていたが、朝倉に恐怖を抱かせ、警戒させた時点で、勝利の女神は、クレベルに微笑みかけていたのかもしれない。