「子供がいる女性の部下は早く帰らせよう」は間違い? 組織の成長を阻む「性別ガチャ」の克服法とは
多様性のあるチームは、葛藤を経て成長する
女性社員は自分たちへの期待に感激しますし、旦那さんも誇らしく思うんですよね。このように、復帰の入り口でカップル両方に語りかけて自然と共育てを促す施策は、企業規模を問わず取り入れやすいように思います。 ──ダイバーシティ推進担当者から、「経営層にDEIや女性活躍推進への強いコミットメントが見られない」という悩みを聞くことがあります。こうしたケースで、経営層にどんな働きかけができるでしょうか。 具体的な対策になりますが、年に一度の経営方針発表会やダイバーシティ会議のような場でトップに必ず話をしてもらい、その様子を企業ホームページの目立つところに掲載するんです。採用のイベントでダイバーシティの方針を語ってもらうのもいいですね。 それが「わが社のダイバーシティ宣言」という対外発信として広がり、顧客や採用の候補者からポジティブな反応がきます。「取引先から御社の取り組みは素晴らしいといわれました」「新卒採用で学生から好評でしたよ」といった良い反響を、担当者からトップに伝える。するとトップは嬉しいし、「好評なら来年もやるよ」と動き始めていく。こんなふうにトップをその気にさせると、トップの意識が変わり、現場の管理職層の意識・行動も変化していきます。 ──多様性のあるチームは経営戦略上も重要だといわれていますが、そうしたチームづくりを進めるうえでリーダーへのアドバイスはありますか。 大事なのは、多様性のあるチームづくりが大変だと知ることです。ダイバーシティ&インクルージョンを大事にしたチームづくりに役立つ本に、『多様性の科学』という本があります。 その本によると、ある実験で、「属性が似ている人のチーム」と「属性が多様な人のチーム」に課題を出して競わせたところ、より高いパフォーマンスを出せたのは「属性が多様なチーム」だったそう。ところが、1つ面白い発見があります。それは、それぞれのメンバーに感想を尋ねたら、「属性が似ている人のチーム」は「面白かった」などの反応をするのですが、「属性が多様な人のチーム」では「議論が激しくなり、大変だった」などと葛藤の様子がうかがえるんです。 ここからわかるのは、多様性があるチームで協働するのが大変なのは当然ということ。これは私自身が日経xwomanの編集長をしていたときの実体験とも符合しています。 チーム内で多様な意見が出て議論が紛糾し対立が生まれると、リーダーは「みんなの意見がまとまらないのは私の力量不足では」などと自分を責めるかもしれません。ですが、そうではなく、多様性あるメンバーがチームとして力を発揮していくために必要なプロセスと捉えると、気がラクになるのではないでしょうか。 また、異なる意見を率直に伝え合えるチームでは、葛藤や対立もあるけれど、マイノリティの意見も尊重される。それがチームの停滞の突破口にもなるし、イノベーションの種にもなります。リーダーの方々には、ぜひこうした点を伝えたいですね。 <羽生祥子(はぶ さちこ)> 著作家・メディアプロデューサー 京都大学農学部入学、総合人間学部卒業(文芸論主専攻、認知科学論副専攻)。2000年に卒業するも就職氷河期の波を受け渡仏。帰国後に無職、フリーランス、ベンチャー、契約社員、業務委託など多様な働き方を経験しながらサバイバル。2002年編集工学研究所に入社し松岡正剛に師事。「千夜千冊」「情報の歴史」に関わる。05年日経ホーム出版社(当時)入社。12年「日経マネー」副編集長。13年「日経DUAL(当時)」を創刊し編集長。18年「日経xwoman」を創刊し総編集長。20年「日経ウーマンエンパワーメントプロジェクト」始動。22年株式会社羽生プロ設立、代表取締役社長。24年マネックスグループ社外取締役就任。内閣府少子化対策大綱検討会、厚生労働省イクメンプロジェクト、東京都子供子育て会議の委員などを歴任し、働く女性や共働き家族の声を発信している。大学講師、企業セミナー、TV等出演多数。プライベートでは2児の母。趣味はピアノ、料理、水泳、筋トレ。目下、グローバルの中で薄れつつある「日本の個性」に着目。大阪・関西万博Women's Pavilion WAプロデューサーとして女性活躍について国内外に発信中。 <flier編集部> 本の要約サービス「flier(フライヤー)」は、「書店に並ぶ本の数が多すぎて、何を読めば良いか分からない」「立ち読みをしたり、書評を読んだりしただけでは、どんな内容の本なのか十分につかめない」というビジネスパーソンの悩みに答え、ビジネス書の新刊や話題のベストセラー、名著の要約を1冊10分で読める形で提供しているサービスです。 通勤時や休憩時間といったスキマ時間を有効活用し、効率良くビジネスのヒントやスキル、教養を身につけたいビジネスパーソンに利用されており、社員教育の一環として法人契約する企業も増えています。 このほか、オンライン読書コミュニティ「flier book labo」の運営など、フライヤーはビジネスパーソンの学びを応援しています。