「子供がいる女性の部下は早く帰らせよう」は間違い? 組織の成長を阻む「性別ガチャ」の克服法とは
「人の家庭の育児分担に、会社は首をつっこめない」は過去の遺物
これにより、企業のトップは数値目標の達成が先送りできない課題と捉え、ようやく本腰を入れ始めました。人事やダイバーシティ推進担当にとって、これは追い風だと思います。 ──ダイバーシティ推進に良い流れができているなかで、継続的な課題は何でしょうか。 役員比率などの差を生む根本の原因は、家庭における「性別ガチャ」です。衝撃的なのは、「家事育児時間」の国際比較のデータです。「母親の方が父親より家事をやっている」という実態は、多くの人が感じていることでしょう。ただし、女性が男性の5.5倍も家事育児をしているという突出した偏りがあるのは世界的に見て日本だけ。OECD全体だと約2倍にとどまっているのです。しかも、日本女性の有償労働の時間は世界でトップクラス。つまり、無償も有償も合わせた労働時間が非常に多く、睡眠がほとんどとれていないのです。 こうした状況下では、女性社員は仕事をセーブするようになり、責任の重い仕事にはブレーキを踏んでしまう。これは身体的にも心理的にも当然といえるのではないでしょうか。 政府はこの課題に気づいていて、女性活躍を進めるうえで「共働き・共育て」を促すようになりました。23年の統計では、共働き世代は全体の71%にまで増えたものの、共育ての視点は欠けていた。その結果、多くの女性が「ワンオペ育児」に追い込まれているのです。 ──企業側は、この状況を変えるためにどんな働きかけをするとよいのでしょうか。 企業は「役割分担は家庭の問題だから踏み込めない」と考えるかもしれません。今後は企業が夫の共育てを後押しすることが重要です。もしもワンオペで家事育児を担う女性社員がいたら、上司から「夫やパートナーに、分担をお願いしましたか?」と、一言声をかけるのです。ポイントは、ふんわりと尋ねて、気づきを与えてあげること。 また、男性側も共育てを歓迎しています。特に今の20代男性は、40代女性よりもジェンダー平等の意識が高いというデータもある。彼らは「女性が家事育児を一手に担う」ことは、「男性が残業も当たり前のように働く」ことの裏返しだと理解しています。そうした価値観はお断り、という男性が増えているのです。 だから、共育てを促す企業は、ジェンダー平等ネイティブ世代からも選ばれやすい企業だといえます。もし管理職層が「女性社員は育児があるから早く帰らせないと」と考えているなら、そうした考え方をアンインストールする必要がありますね。 ■人的資本開示で上位の企業、そうでない企業の決定的な違いとは? ──最近では企業の人材の情報を社内外に公開する人的資本開示が進んでいます。ダイバーシティや女性活躍において、人的資本開示で上位にくる企業と、そうでない企業との違いは何ですか。 上位にくる企業は、社員の性別で接する態度を変えることなく、人材育成を進めています。自社の将来を担う人材として、期待を伝え、挑戦の機会を与えている。 また、トップが若い世代の労働観や幸福に対する考え方が大きく変わってきていることを認識しています。ダイバーシティ推進に取り組まないことは経営上のリスク。逆に、取り組めば今後の人材獲得や業績向上といった経営上のチャンスになる。こんなふうに、人的資本に直結する課題だと理解している企業は、取り組みが実を結んでいますね。 約8年前に取材した、お手本にしたい企業の事例を紹介しましょう。SMBCグループでは当時、人的資本開示が義務化される前から、画期的な職場復帰セミナーを開催していました。女性社員が復帰するタイミングに、自社・他社勤務を問わず夫やパートナーも一緒に受講してもらうのです。そして人事のトップがパートナーに向かって、こう語ります。「あなたの隣にいる女性は、家ではよい奥さん、よいお母さんだと思います。ただ、わが社にとってはこの会社をリードしていく大切な人材なんです」。