乳がんで失った乳房…今話題の乳房再建写真集で考える「乳房再建」の現実と課題
日本の乳房再建率は10数パーセント
保険が効き、技術革新が進み、適用範囲が広がれば、再建はどんどん身近な医療になっていいはずだ。ところがインプラントの乳房再建が保険適用になって一旦は増加したがそれ以降、手術件数は伸び悩んでいるそうだ。 乳がんの術後、別の病院で再建する人や、自費診療の脂肪注入まで正確な数は拾えていないとしながらも。 「日本では乳房切除術(全摘)を受けた方は10数パーセントにとどまっています。韓国の53.4%(2018年)、アメリカの40%以上(2016年)と日本に比べて圧倒的に高い。先進国の中でも低いのが現状です」(佐武さん) 2019年にそれまで乳房再建で主流だった乳房インプラント(人工乳房)が使えなくなる緊急事態が起こり、当時『乳がん患者に激震!乳房再建インプラント「リコール」の「その後」』という記事で、乳房再建手術を検討していた患者たちの声を紹介した。そのすぐあと、コロナ下に突入し再建数は減った。現在は再建の環境は回復し、自家組織再建は徐々に増えているが、インプラント再建はコロナ前に戻らず、全体的に増えていないそうだ。 伸び悩みの理由として考えられるのは、乳房再建の情報が患者に行き渡っていないこと。乳腺外科と形成外科の医師不足による地域格差と、乳房再建への理解が足りない乳腺外科医が未だにいることだという。 「乳房再建を行うには、乳がんを取り除く乳腺外科医と再建を行う形成外科医の密な連携が必要です。首都圏の大きな病院ならば両方の専門医が揃っているので、積極的に情報提供がされますが、形成外科医がいない病院は多く、乳がん患者さんはその病院では再建できません。さらに、地方では乳腺を専門とする医師が少ないところもあり、乳がん治療で手一杯で、乳房再建の選択肢がないことも少なくありません」(佐武さん)
施設も心理的負担も地域差が大きい
もちろん、乳房再建をするかしないかは個人の感じ方や価値観の違いで、乳房再建をしたほうが幸せとは言い切れない。実際に乳房を失ったことと折り合いをつけ不都合なく充実した人生を送っている人はたくさんいる。 ただ乳房を失う辛さは、どの地域に住んでいても同じであるにも関わらず、選択肢がないためにあきらめざるを得ないのは、悲しいことだ。 今回、写真集の制作を行った『E-BeC』では、乳房再建の正しい情報を広めるために乳房再建セミナーを行い、毎年乳がん患者さんのアンケート調査を行っているが、乳房再建の術数の地域格差は歴然だという。 「地方の方で再建しない理由は、情報がなかった。再建できる施設がない。再建ができる施設が遠方で通えない。周りに再建をしている人がいない。家族や患者仲間が否定的、などさまざまです」(真水さん) 地方では乳房再建手術というものがあることを知らない人も多いという。また、乳がんを知られたくない人も地方ほど多く、友達と旅行することをやめ、温泉地に住む方は公共の温泉に行かなくなり、交流を断ってしまう。乳がんは治っても乳房がないことでずっと孤立を感じる人もいる。この他、乳がん治療では仕事を休めても、再建では休みづらいという声も多い。 「一方、首都圏では再建の選択肢や情報が多すぎて自分に合った再建法が何かわからない、という悩みが多く届きます、住んでいる場所で悩みの土俵が違うんです」(真水さん)