乳がんで失った乳房…今話題の乳房再建写真集で考える「乳房再建」の現実と課題
保険適用になっている「乳房再建」
失った乳房の膨らみや乳頭乳輪を作り直す「乳房再建」とはどんなものなのだろう。最先端の乳房再建の研究と実践を長年手がけてきた、富山大学附属病院 形成外科医の佐武利彦さんに現状と課題を聞いた。 「日本の女性の9人に1人が生涯で乳がんに罹患し、毎年新たに9万人以上の方が乳がんと診断され、その半数以上が乳房切除術(全摘)を受けられています。乳房再建とは、がん手術などで失った乳房を、元に近い形に復元する手術のことです。 主に、自分の組織(お腹や背中、太ももなどの)を胸に移植する「自家組織再建」と、人工物を挿入してつくる「乳房インプラント再建」がありますが、2006年に自家組織再建、2013年インプラント再建が、それぞれ保険適用になっています。 また2020年4月には、乳がんと診断された方で、遺伝子的に乳がんや卵巣がんを発症しやすい「遺伝性乳がん卵巣がん」(HBOC)と分かった場合、がんを発症していない側の乳房や卵巣を予防的に切除する「リスク低減手術」とともに、乳房再建も保険が適用になりました。脂肪注入による乳房再建は保険適用外ですが、実施する施設も少しずつ増えているというのが現状です」(佐武さん) 再建の技術面でも、私が受けた20年近く前に比べて、大幅に進化している。 「自家組織再建では、お腹や太ももの皮膚や脂肪と一緒に、血管付きの筋肉の一部を胸に移植していましたが、 “穿通枝皮弁(せんつうしひべん)”と呼ばれる技術を習得した形成外科医が増えてきました。この穿通枝皮弁という技術は、筋肉を一切傷つけないので、身体への影響も少なく自然な乳房を作ることができるなどのメリットがあります。また、主に部分切除の胸の変形の修正に使われていた脂肪注入も、この技術だけでひとつの乳房をつくることが可能になってきています」 (佐武さん) このほか富山大学附属病院では、血管と一緒に神経もつないで乳房の感覚を戻したり、上肢のリンパ浮腫を発症している人、発症の可能性が高い人に、お腹の組織と一緒にリンパ節とリンパ管も胸に移植し、リンパ浮腫の治療や予防も兼ねた再建が行われるなど、術後の機能回復も一緒に目指す流れになってきているそうだ。 「乳房インプラント再建も、再建に使用する乳房インプラントの表面が滑らかになり、これにより稀に起こる合併症の「リンパ腫」発症のリスクがほぼゼロになりました。またシリコンゲルの軟らかさが異なる乳房インプラントが選べるようになり、下垂感のある乳房でもうまく再建でき、患者さんにとってのメリットも高くなったと言えます」 (佐武さん) 日本形成外科学会のガイドラインでは、再建の適用をこれまでの「早期乳がん」から「ステージIIIb」まで広げ、より多くの人が再建手術を受けられるようにも変化してきている。