田中知之(FPM)が選んだ男の定番。今月はコレ!「1960年代のウエスタン・ジャケット」
常に独自の視点で独自の音楽を生み出していくDJとして世界中で活躍する田中知之(FPM)さん。音楽のみならずファッション、時計、クルマ、グルメとオールジャンルでの博覧強記を駆使した田中流「男の定番」をご紹介する連載です。 田中知之(FPM)の「DJ目線で指南するちょいウラな定番」
世界を舞台に活躍するDJ田中知之(FPM)さんが自らの美意識に叶った「男の定番」をご紹介する連載。今回のテーマは……。
■ 1960年代レーヨンギャバジンウエスタン・ジャケット
長い年月をかけて古着屋を巡っていると、過去何度も目にした時には何とも思わなかったのに、不意に気になって欲しくなった時にはすっかり店先から姿を消してしまっていて、いざ買おうと思うと随分と高価になっているアイテムがままある。今回、皆さまにご紹介するミッドセンチュリーのレーヨンギャバジンの刺繍入りのウエスタン・ジャケットもそんな一着だ。
【Front Side】
確か2006年頃、かのジョニー・デップがニューヨークのエド・サリバン劇場で行われたとあるショーに出演した時、ヴィンテージの黒いレーヨンギャバ生地に銀白の刺繍が施されたウエスタン・ジャケットを、胸元が開いたTシャツと褪色したブルージーンズの上に羽織って登場した。その時の写真が世に出回り、ヴィンテージ市場でこの手のジャケットが注目を集めるきっかけになり、じわりじわりとプライスが上がりはじめたように記憶する。 彼はこの日に着用した以外にも、同色、同タイプの刺繍が入ったヴィンテージのウエスタン・ジャケットを複数枚所有、着用していることが確認されている。それまではウエスタン・マニアや一部のロカビリーのミュージャンやファンにのみに支持されていたマニアックなアイテムが、これをきっかけに一般化し、いくつかのブランドからもオマージュされリリースされはじめるのだが、必ずと言ってよいほどデップの名前が付いて回ることとなる。
【Back Side】
へそ曲がりな私は、有名人が着用したことで人気になったアイテムはあえて避けてしまう傾向にあり、しばらくはまったく気にも留めないでいた。しかし、モノトーンの装いの仕上げにどうしても着用したくなり、急遽あれこれ探してみたのだが、HbarCやMac Murrayなど、実際にデップが所有すると特定されるメーカーの1950年代のヴィンテージはとんでもないプライスを付けていることを知り、半ば諦めかけていた時California Ranchwearという上記2社に続いて人気のある老舗ブランドが60年代に製造したこの個体に出合った。 刺繍の風合いも佇まいも良い。これ以降の時代も、言ってしまえば現在でも、同デザインのウエスタン・ジャケットの製造は続いているのだが、光沢のある肉厚でトロンとした独特の素材感とオーラはギリギリ60年代までのものに限られているように思う。当然、ウエスタンブーツやテンガロンハットとのコーディネートは厳禁。ブルーデニムと合わせるのもご遠慮願いたい。私はこの初夏は、白いTシャツと白いショーツにさらっと合わせたい。
田中知之(FPM)
1966年京都生まれ。音楽プロデューサーでありDJ。それでいてクルマも時計も大好物。ヴィンテージにも精通し、服、家具問わずコレクターであり、食への造詣も深い。 2024年6月号より
文/田中知之(FPM) 写真/鈴木泰之(Studio Log)