「島袋道浩 音楽が聞こえてきた」展開幕レポート。音楽家たちとの共作、一堂に
90年代初頭より国内外の多くの場所を旅し、そこに生きる人々の生活や文化をみつめ、新しいコミュニケーションやアートのあり方に関する作品を制作してきた島袋道浩 (1969年神戸生まれ)。その個展「島袋道浩 音楽が聞こえてきた」展が、横浜のBankArt Stationで開幕した。会期は9月23日まで。 島袋は近年、ムゼイオン:ボルツァーノ現代美術館(2023)をはじめ、ウィールス現代アートセンター(2022)、モナコ国立新美術館(2021)、クレダック現代アートセンター(2018)、クンスト・ハーレ・ベルン(2014)などで個展を開催。主要な国際展にも数多く参加しており、第57回ヴェネチア・ビエンナーレ(2003、2017)、第 14 回リヨン・ビエンナーレ(2017 )、第 12 回ハバナ・ビエンナーレ(2015)、第27回サンパウロ・ビエンナーレ(2006)などがある。いっぽう国内では、「島袋道浩 展:美術の星の人へ」(ワタリウム美術館、2008-09)や「島袋道浩:能登」(金沢21世紀美術館、2013-14)などの個展のほか、岡山芸術交流(2022)、 Reborn Art Festival (2017、2019)、札幌国際芸術祭(2014)、横浜トリエンナーレ(2001、2011)などに参加。現代アートが数多く集まる大分県・国東半島 には、複数の作品が常設されている。 島袋はこれまで、作曲家の野村誠や小杉武久、ミュージシャンのカシン、モレノ・ヴェローゾ、アート・リンゼイ、ブラジルの吟遊詩人のへペンチスタなど、様々な音楽関係者たちとコラボレーションを行ってきた。関東圏では15年ぶりの個展となる本展は、そうした人々とのコラボレーション作品にフォーカスしたものとなっている。 日本初公開となる《キューバのサンバ リミックス》は空き缶に落ちる水滴が音を奏でるもので、本展ではカシン+アート・リンゼイによるリミックス(2016)と、野村誠によるリミックス(2023)をそれぞれ見る(聴く)ことができる。音楽ファンにとっても要注目のピースだ。なお、これと関連するような本展のための新作《横浜、音楽が聞こえてきた》(2024)もお見逃しなく。 《シマブクのフィッシュ・アンド・チップス》(2006)は、島袋がイギリスで見かけたフィシュ・アンド・チップスのサインから着想されたもの。魚とジャガイモ=海と陸の素材が出会うフィシュ・アンド・チップスという料理のおもしろさに惹かれた島袋は、実際にジャガイモが海を泳いで魚に会いに行くという映像を制作。その楽曲はカシンが担当している。同作はポンピドゥー・センターにも所蔵されており、日本ではなかなか見る機会のない作品だ。 《音楽家の小杉武久さんと能登へ行く(桶滝)》と《音楽家の小杉武久さんと能登へ行く(見附島)》(ともに2013)は、電子音楽のパイオニアであり、「グループ音楽」や「フルクサス」の活動でも知られる小杉武久(1938~2018)とともに制作した映像作品。小杉が歩きながら、拾った木の枝や桶で音を奏でる様子がとらえられている。能登半島地震によってその姿を変えた見附島のかつての様子も収められており、いまは亡き小杉とともに、消えてしまった風景を想う作品でもある。 無料ゾーンで展示されている《白鳥、海へ行く》(2012、2014)は、「岡山芸術交流2022」でも発表された映像作品。島袋の母の出身地である岡山にまつわる記憶から生み出された映像作品であり、地元で観光客に親しまれてきた「白鳥ボート」を解放し、世界中を旅してきた自分のように、海へと連れて行くもの。本作の音楽も、《キューバのサンバ リミックス》同様、野村誠が担当している。 島袋は音楽家たちとの共作について、「音楽は生活にも作品にも必要。自分のできないことだから楽しいよね」と語る。本展は、その島袋の楽しさが見ているこちらにも伝わってくるような展覧会だ。
文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)