社内のメンタル不調にどう向き合う!? 工夫次第で昇進した人も
人間関係の不和を解消する一歩は、「役割の違い」を認識することから
荷川取さんは2020年に一般社団法人ポリネも立ち上げ、メンタルヘルス不調を生まないマネジメントサポートを日本全国の企業に対して行っている。その一社で、地方の中小企業にデジタル戦略支援をする静岡の企業・株式会社トムスの中川豊章代表取締役社長は、自社での取り組みとともに社内でメンタルヘルス不調者を出さない難しさについても赤裸々に語った。
「私は組織のマネジメントを考える上で、社内の人間関係の質を高めることを大切にしています。地方の中小企業が成果を上げ続けながら持続していくためには、売り上げや数字といった成果を起点とするのではなく、人間関係を起点としてその質を高めていくことで成果が上がるという成功循環モデルで組織づくりをする必要があると考えているからです。ただ、3年前くらいですかね。当時の社内では一人の上司と周囲との関係性がよくなく、互いに不平不満を言い合っているような状況でした。メンタルヘルス不調を訴える人は出ていませんでしたが、いつそうなっても不思議じゃなかった。その関係性をよくしたいという思いで利用したのが、ポリネ。社内の人間関係の改善が、メンタルヘルス不調を起こさないことにもつながるということを理解した上で、サポートを受け始めました」 関係性改善のために、自分の思考プロセスと相手の思考プロセスの違いを理解できるポリネのプログラムを、社員全員参加の2泊3日の研修で行った。研修後も社内ワークショップを通じて互いの理解を深めるための対話の機会を増やし、「以前よりもいい関係性になれたと思います」と手応えを口にする。 一方で、関係性を改善したことによって精神的に苦しむ社員もいた。 「関係性を改善していくと、社員が進んで『自分はこれがやりたい』『この人のために何かしたい』という思考となり、自走する組織になっていきます。しかしそれが、苦しいと感じる人も中にはいます。言われたことをこなしているほうが楽なタイプは、かえって周囲との差を感じたり、自分を見失って精神を病んでしまったりするんです。メンタルヘルス不調者を出さない職場づくりって、本当に難しいと感じます。ただ、世の中で起こっているメンタルヘルス不調の原因のほとんどは、上司からのパワハラなど、人間関係によるストレス。うちの会社で過去に休職した方々もそうだったと思います」 心身ともに健康的に働き続けられる職場にするために、中川さんが社員に伝えたいこと、社長として胸に留めていることは何か。 「自分の立場が上司であれ部下であれ、多くの会社員が見つめ直したほうがいいと感じるのが、自分や相手を偉い人、偉くない人として見ていないかということ。日本の企業はまだまだ上下関係がハッキリしているのも、その風潮につながっていますよね。部長などの肩書は偉いから与えられているのではなくて、その人の役割として与えられているものなんです。それが、偉い・偉くないと誤認されることで、言いたいことが言えずにストレスがたまって精神を病んでしまうという結果につながります。役割の違いということを互いに理解すれば、互いにリスペクトを送り合うコミュニケーションが生まれ、関係性はよくなるはず。その違いを認識できる機会をつくることが、経営層には求められているのだと思います」