社内のメンタル不調にどう向き合う!? 工夫次第で昇進した人も
環境不適応から生まれるうつ状態。特性を理解し、工夫できるか
Aさんを長年苦しめていたのは、不適切な薬の摂取による体への負担だけでなく、職場の人たちに症状が理解されないままに、努力を強制されたり腫れ物に触るような接し方をされたりしたことだった。 なぜ当事者を苦しめる対応がされてしまうのか。再休職率0%の実績を持つリワーク専門の心療内科で、企業と連携を取りながら患者の職場復帰をサポートする大阪のボーボット・メディカル・クリニック院長の亀廣聡さんの話からは、メンタルヘルス不調への理解が社会全体で追いついていないことが見えてきた。
「まず、代表的な精神疾患の一つであるうつ病についてですが、私はうつ病という病気にかかっている人は、実際はさほど多くないと思っています。これまで診察してきた2000人以上 の患者さんの中で、抗うつ薬投与と安静休養指示といううつ病への対応をした人はたった2人。仕事のことを考えると眠れない、職場に行こうとすると吐き気がする、といった症状は『うつ状態』と呼んでいいと思いますが、必ずしもうつ病とは言えない。それを引き起こす疾病は幅広いんです。ですが、職場の方を含め多くの人が、メンタルヘルス疾患をそのままうつ病と捉えています。メンタルヘルス不調を起こしている患者さんの職場の方と面談するとき、『うつ病だからがんばれって言っちゃダメなんですよね?』と聞かれることはよくあります。昭和の頃から言われてきた強烈なキャッチコピーから、今でも抜け出せていない」 また亀廣さんは、「発達障害による職場環境への不適合で生きづらさを感じ、うつ状態になるケースは少なくありません」と語る。内閣府が出している『ひきこもり支援者読本』でも、第2章にADHDからうつ、躁うつなどの二次障害を併発している割合は86%という数字が出ている。亀廣さんは周りができる対処法として、こう伝えているという。 「たとえば、言語化やアウトプットが苦手という特性により、わからないことを人に聞けず苦しんでいる患者さんの職場の上司には、『本人に悩んでいるそぶりがなくても毎日5分でいいのでミーティングをしてほしい』と伝えています。そういった工夫は、視力が低い人に眼鏡をかけることを勧めるのと同じ考え方です。近視や乱視の人に『自分の努力で見えるようにしろ』とは言わないですよね。周囲の工夫によって本人の生きづらさを軽減できるというのは、発達障害に限った話ではなく、どんな障害、疾患に対しても言えることだと思います」