40歳過ぎたら下り坂「残りの人生をどう生きるか」 稲垣えみ子×中村明澄医師の対談「手放すことは怖くない」
中村:具体的にどうやって価値観を変えていったのでしょうか。 稲垣:会社員時代は、お金を使わない楽しみなんて考えたことがなかったから、まずは、お金がなくても楽しめることを見つけないと、と思いました。散歩するとか、近所の山に登るとか、やってみたらお金を使わない楽しみって案外たくさんあるんですね。 考えてみると、お金を使う楽しみって、新しい服とか踊り炊きの炊飯器とか、欲しいモノを買うときはうれしい。でも、そのうれしさは持続しなくて、次にまた欲しいモノが出てくる。結局、どんなにお金やモノがあっても足りないばかりか、失う恐怖のほうが増えていくんですよね。
中村:確かにそうかも……。 稲垣:あと東日本大震災の原発事故を機に、家電製品を1つひとつ手放していったことも自分の価値観を大きく変えました。それまでずっと必需品だと信じて疑わなかったものが、実はなくても平気だと気付いた。そのことがどんな娯楽よりも爆発的に楽しかったんです。 中村:モノがない暮らしが思った以上に楽しかった? ■老後って怖いどころかすごく楽しい 稲垣:「ない」ということが怖くないんだ、むしろそれまでずっと使っていなかった自分の中の工夫する力や、人と助け合う力が目覚めていくんだっていうことが、すごく楽しいというか、人生の展望がひらけた感じ。
だって「ない」ことが楽しくて、いろんなことをなくしていった最後の着地点に「死」というゴールがあるんだったら、老後って怖いどころか楽しいことばっかりじゃないですか。 中村:人生のゴールを見据えてどう過ごすかを考える。それって難しいけれど、大切なことですよね。 稲垣:中村先生はご著書で、余命を知った患者さんが、死ぬまでの間にこれをしておくんだと、オロオロするどころか、むしろ周囲が驚くほどビシッと目標を定めて人生をまっとうしていく姿を紹介しています。死を前提にすると、どう生きるかに迷いがなくなる。読んでいて、本当にそうだなと納得しました。