40歳過ぎたら下り坂「残りの人生をどう生きるか」 稲垣えみ子×中村明澄医師の対談「手放すことは怖くない」
中村:本当であれば、終末期を迎えるもっと前から、「死ぬまでの人生を、どうやって過ごしていきたいか」を考えられたらいいんですけれど。稲垣さんのように、年を取ることが怖くないって思えるような暮らしができたら、きっとみんな楽になると思うんです。 稲垣:そうですね。私はたぶん、今「長い終末期」を生きているんだと思います。 中村:でも、40歳で死に向かうと気付いた稲垣さんのようにはいかなくて、多くの人は「これから先は下りなのか」と思って、暗くなってしまいそう。
稲垣:確かに、「人生がもう半分済んだ」と考えたら寂しいですよね。でも考えようによったら、下っていくってすごくラクで自由じゃないですか。 ずっと上っていくってしんどいですよ。競争社会の中で負けて転落しないように努力し続けなきゃいけないって、ある意味地獄です。その競争を終えてもいいんだ、違う価値観を見つけていいんだって思えたことは、私にとっては希望でしたね。 中村:下り坂の中にも希望を見いだすというのは、今、何らかの病気を抱えている患者さんにもいえることなのかなと、感じました。
■「今ある時間が濃くなる」って思っている 稲垣:人生の時間が限られているとわかったなかで生きていけば、今ある時間が濃くなるって思っているんです。何しろ遠くない将来に死ぬんだから、たとえ失敗したところで大したことない。そう思ったらやりたいことはシンプルにやるだけです。うじうじしていないで「やるぞ!」っていう。なんかロックな感じになってくるんですよ。 中村:まさにロックですね(笑)。私も稲垣さんのように生きたくて、断捨離を試みたんですけど、なかなか進みません。
稲垣:私はだいぶハードコアなんで、真似する必要はないんじゃないでしょうか(笑)。ただ、お金と幸せは直結しないということには気づいたほうがいいと思っていて。 例えば、毎日ごちそうを食べることが幸せとは限らない。よく、死ぬ前に食べたいものを聞くと「おにぎりとみそ汁」とかって答える人が多いですよね。そうだとしたら、毎日おにぎりとみそ汁を食べられたら、めっちゃ幸せじゃないですか。そこに気づけばお金の不安がなくなります。
中村:お金を持って三途の川は渡れませんよね。私は稲垣さんの本を読んで、まずは洗面台掃除のたわしを捨てて手で磨くようにしたら、「手ってなんて便利なの!」という気付きはありました(笑)。 稲垣:そういう小さな気付きがきっと大切です! (後編に続く) (司会・構成/岩下明日香)
稲垣 えみ子 :フリーランサー/中村 明澄 :向日葵クリニック院長 在宅医療専門医 緩和医療専門医 家庭医療専門医