「気楽な記事がたくさんあって楽しいのに」今や夕刊が読めるのは都市部だけ…新聞の夕刊がなくなる日
高尾さんの現役時代、とくダネはなるべく朝刊の最終版で入れ、他の新聞社に気づかれないように行動するのが鉄則だった。しかし今はニュースをつかんだら、その場でネットに出してしまう。 他媒体に提供すれば、そこで利益も出そうに思うのだが……。 「GoogleやYahoo!が出てきたとき、そこで扱われるニュースのほとんどは新聞社が出したものでしたが、そのスタートを間違えて、非常に安い価格で提供してしまったんです。 つかんだニュースをただ同然で流し、自分で自分の首を絞める構造に。完全にメディア戦略の失敗でした」 ◆「新聞の原点は“調査報道”。そういう力が十分に発揮されているかどうか……」 夕刊を存続させるためにはデジタル版で新たな読者を獲得することが急務だが、紙の読者にはデジタル弱者の高齢者も多く、移行はなかなか難しい。かといって、元々新聞に興味を持たない人たちにデジタル版を読んでもらうのも難しそうな気もするが……。 「例えば毎日新聞の場合、コピーライターの仲畑貴志さんが選者となって朝刊で優秀作品を連載している『仲畑流万能川柳』が人気で、そこだけで繋がっている読者も多いんです。そういった質の高い企画やコラムなどをひとつでも多く出し、有料コンテンツも充実させて収入に結びつけられたらと。 ニュース報道の記者は少なくなりましたが、質の良い読み物を出稿するためのスタッフは人数も増え、ある意味充実しています。 また、読者に結びつくかどうかはわかりませんが、紙の新聞には載らず、ネットだけで流す記事もありますし」 ニュースだけではなく読み物も充実させて、デジタルの新規読者を獲得する。一方で、紙の新聞が生き残るためにできること、するべきこととは? 「ニュースを早く出すという点では生き残れないと思います。でも、新聞の原点には“調査報道”があります。 権力が隠している、世の中に出ていない事実を、新聞社の努力で発掘して報道する。そういう力が十分に発揮されているかどうかが、これからの課題だと思うんです」 例えば自民党の政治献金の裏金問題発覚は、『しんぶん赤旗』の報道が発端となった。一般の新聞が報道しなかったのは非常に残念だったと、高尾さんは振り返る。 「表に出したくない事実というものが、多分まだたくさんあるわけで、それをきちんと追いかけていく体制をもう一度作らないと、新聞そのものの存在意義がなくなってしまいます。 起きたことをただ報道するだけでは、新聞の役割は果たせません。今一度原点に返り、世の中の風潮に影響されず、きちんとした意思をもって取材し報道する。 馬鹿みたいに聞こえるかもしれないけれど、後輩たちには一途に新聞をつくってほしい。その思いがあれば、読者にも通じるんじゃないかなと思っています」 高尾義彦(たかお・よしひこ)1969年、毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長などを歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』(社会思想社)、『中坊公平の追いつめる』、『中坊公平の修羅に入る』(ともに毎日新聞出版)など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ』を自費出版。 取材・文:井出千昌
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