なぜ横浜FCの53歳”キング”カズ、42歳中村俊輔、39歳松井大輔がJ1舞台で揃い踏みしたのか?
FW中山雅史(当時コンサドーレ札幌、現アスルクラロ沼津)が2012シーズンに樹立した、45歳2カ月1日のJ1最年長出場記録を大幅に更新。未来永劫に破られない記録保持者として、歴史に名を刻むカズへの畏敬の念に加えてもうひとつ、キャプテンマークが託される理由があった。 「前回もチームの士気が上がりました。後半戦の初っぱなでチームに勢いをつけてもらうためにも、今回もカズさんの力が必要だと考えています」 フロンターレ戦を翌日に控えた22日のオンライン会見で、下平監督はカズのベンチ入りを明言していた。敵地で大分トリニータに敗れてから中2日の過密日程。加えて、試合には出なかったものの、カズが初めてベンチ入りした13日の名古屋グランパス戦でチームは逆転勝利をあげていた。 カズが2度先発したYBCルヴァンカップでも1勝1分け。日々の練習で常に先頭に立ち、120%の準備を怠らない真摯な姿勢に誰もが魅せられ、ベンチ入りして同じ空気と時間を共有するだけで、指揮官をして「士気が上がる」と目を細めさせる。 満を持してカズを先発に指名したフロンターレ戦では、42歳のMF中村俊輔、39歳のMF松井大輔と合計年齢が134歳になる元日本代表トリオも、先発として初めてそろい踏みさせた。その意図を48歳の指揮官はこう語っている。 「フロンターレが前からプレッシャーをかけてくることはわかっていたので、そこをしっかりと剥がしながら、自分たちでビルドアップして相手に守備をさせる。めげずに何度も何度もビルドアップを繰り返したことが、結果として後半に相手の足を止めて、自分たちの時間につながったと思います」
ボールキープとビルドアップを託してボランチに松井、右サイドハーフには俊輔を起用。前半22分に東京五輪世代のMF田中碧に先制弾を許し、後半開始早々には大卒ルーキーのFW旗手怜央(順天堂大)に追加点を奪われながらも、直後に俊輔の左コーナーキックから20歳のDF小林友希がプロ初ゴールをゲット。しぶとく食らいつきながら、フロンターレにボディーブローを与えていった。 そして、異次元の強さで首位を独走するフロンターレへ立ち向かう上で、精神的支柱の役割を担ったカズはシュート数ゼロのまま、後半11分に19歳のFW斉藤光毅との交代でベンチへ下がった。 「守る時間が長くなることは自分でもわかっていたんですけど、そのなかでもペナルティーエリア付近での仕事というのはどうしても少なくなったし、自分としても物足りなかったと思っています」 FWとしての自分に悔しさを募らせたカズだが、チームが前半に放った唯一のシュートを演出している。中盤の左サイドに降りてきて、大卒ルーキーのMF松尾佑介(仙台大)とのワンツーを、背後からプレッシャーを受け、最後はピッチに転がされながらも成功させたのは37分だった。 松尾はそのまま左タッチライン際を抜け出し、最後はペナルティーエリア内へ横パスを通す。カズが空けたスペースへ攻め込んできた松井が左足のトラップでボールを浮かせ、そのままボレーにもちこむもボールをヒットできず、力のないシュートがGKチョン・ソンリョンにキャッチされた。 5月に39歳になった松井は、クラブ内における立ち位置を「カズさんがいるのもあるけど、僕は若手だと思っています」と屈託なく笑う。鹿児島実業高の卒業を控えた2000年春。数多くのオファーのなかから、憧れの存在だったカズが当時所属していた京都パープルサンガを選んだ。