悲願のJ1昇格を決めた横浜FC三浦カズは何を語ったか?「信じてもらえないのかもしれないが」
13年ぶりのJ1昇格へ向けてカウントダウンに入っていた、ニッパツ三ツ沢球技場のボルテージがさらに上がった。横浜FCが2点をリードして迎えた後半40分すぎ。最後となる3人目の選手交代の準備を進め、52歳の現役最年長選手、FW三浦知良がベンチ前でスタンバイした瞬間だった。 愛媛FCをホームに迎えた24日の明治安田生命J2リーグ最終節。今シーズン最多の1万2937人で埋まったスタンドは、午後2時のキックオフ前から盛り上がっていた。勝てば無条件で2位が決まり、J1へ自動昇格できる大一番で、カズが6試合ぶりにベンチ入りを果たしていたからだ。 セーフティーリードを奪って迎えた後半終了間際にカズがピッチに立ち、至福の瞬間をスタンドと共有する。横浜FCのファンやサポーターが思い描いた理想のシナリオは、後半42分にカズが投入され、表示された3分のアディショナルタイムが過ぎた直後に現実のものとなった。 「大勢のファンやサポーターの前で、最高の形で昇格することができた。ホームでみんなとその輪に加われたことを誇りに、そして光栄に思います。素直に感動しました」 リーグ戦のピッチに立つのは先発して後半7分までプレーした、4月7日のアビスパ福岡戦以来、実に231日ぶりとなる。その間に時代は平成から令和に、横浜FCの指揮官はブラジル人のタヴァレス監督から、柏レイソルを率いた経験をもつ47歳の下平隆宏監督に代わった。 リーグ戦の軌跡を右肩上がりに転じさせ、昇格争いに加わった下平体制下でベンチ入りを勝ち取ったのは愛媛戦で4度目。まるで用意されていたような大一番で、カズは34年目を迎えたプロ人生で、ほとんど記憶にない緊張感を胸中に募らせ続けていた。
「みなさんはきっと、僕のことをあまり緊張しないと思っているかもしれないけど、これだけ経験を積んできたのに、今日は何か不思議と試合前から緊張していた。試合中にベンチに座っていても常に緊張している、という状態になったのは初めてでしたね」 他の選手たちも同じ心境なのかと思い、隣にいた18歳の現役高校生、FW斉藤光毅に「お前、緊張しないの」と聞いてみた。返ってきた答えに思わず苦笑いしたとカズは打ち明ける。 「恥ずかしいと思いながら聞いたら『全然しないっすね』と軽く言ってきたので。すごく頼もしいですよね。実際、光毅も『やってやる』という感じで途中から出ていきましたからね」 斉藤、ボランチの田代真一に続いて投入されたカズはトップ下でプレー。ボールに触る機会こそほとんどなかったものの、相手のボールホルダーへ何度もプレッシャーをかけた。6分ほどのプレー時間を「逆に一番落ち着きました」と振り返りながら、緊張感が増幅された理由に思いを馳せる。 「プレーオフの難しさは過去2回経験しているし、去年は去年でああいう負け方をして、3位では何の意味もないと味わわされましたからね。ここまで来て、(自動的に)昇格できるチャンスを絶対に逃しちゃいけない、という思いから来ていたんですかね」 横浜FCの歴史上で唯一、J1を戦った2007シーズンを知る選手は、いまではカズだけになってしまった。1年でJ2へ戻った2008シーズン以降を、カズは「下位に沈むシーズンもあったし、真ん中くらいで落ち着くシーズンが続いたこともあった」と不甲斐なさとともに振り返る。 J1へ近づいたのは3度。4位でフィニッシュした2012シーズンは、新たに導入されたJ1昇格プレーオフの初戦でジェフ千葉に0-4の完敗を喫した。昨シーズンは大分トリニータと勝ち点76で並んでシーズンを終えながら得失点差で後塵を拝し、3位でJ1への自動昇格を逃した。