富岡西、魅せた団結力 六回に木村が同点打 /徳島
<センバツ2019> 第91回選抜高校野球大会第4日の26日、創部119年にして春夏通じて初の甲子園出場を果たした富岡西は、1回戦第3試合で東邦(愛知)と対戦し、1-3で惜しくも敗れた。相手に先制を許したものの追加点を簡単に与えず、六回には1点をつかみ取り、一時は同点に追いついた。チームの持ち味であるノーサイン野球を駆使し、昨秋の東海大会を制した強豪校を十分苦しめた。試合後、野球のまち・阿南市などから詰めかけた大観衆からは「ようやった」「夏期待しとるぞ」と選手たちをねぎらう声や拍手が響き渡った。【岩本桜】 【熱闘センバツ全31試合の写真特集】 富岡西 000001000=1 00100020×=3 東邦 「いい守備をしている。まだまだこれからや」。一塁側アルプス席でOBの岩浅嘉仁阿南市長(64)は手応えを感じていた。先制こそ許したが、エースの浮橋幸太投手(3年)の緩急を織り交ぜた投球が優勝候補を翻弄していた。この日の甲子園は風が強かったが、再三の大飛球に外野の守備陣が好捕を続けた。初めての甲子園なのに選手たちは落ち着いていた。アルプスを隙間がないほど埋め尽くし、チームカラーのえんじ色に染めた大観衆の誰もが、反撃を期待するほど堂々とした戦いぶりだった。 六回表、ようやく願いが通じる。1死から吉田啓剛選手(同)が死球で出塁すると、続く安藤稜平選手(同)が豪快に右前打を放った。山崎光希選手(同)が内野に打球を転がし、2死一、三塁で木村頼知選手(同)に打席が回ってきた。前の打席は見逃し三振。「今度はアウトコースを振り抜こう」と速球を振り抜くと打球は一塁線に転がった。「入れ、入れ!」と祈りが届いたのか、適時二塁打となり、執念の1点をもぎ取った。アルプス席は「よくやった!」と喜びが爆発。ボルテージは最高潮に達した。保護者会でそろえたえんじ色のジャンパーを着て応援していた木村選手の母、美穂さん(49)は「チャンスで回ってくるなんて。前の打席で打ててなかったのでうれしい」と興奮した様子だった。 しかし、七回裏に無情にも2点の勝ち越しを許した。アルプス席は「頑張れ!」「まだまだこれからや!」との大声援。だが、最後の打者となった粟田翔瑛選手(同)のヘッドスライディングも実らなかった。父の直樹さん(47)は「よくやった。打席で粘っている息子が頼もしかった」。浮橋投手の父、輝倫さん(55)は「強豪チームと接戦にしてうれしくもあった。ご苦労さんと声をかけたい」とねぎらった。富岡西の春が終わった。 試合後、選手たちはアルプス席前に整列し「ありがとうございました」と深々と頭を下げた。えんじ色に染まった観客席からは選手に向けて大きな拍手が送られ「ありがとう」「次は夏や」と温かい言葉が贈られた。小川浩監督(58)は「(選手たちは)もっと緊張しているかと思ったが、よく動けていた」と振り返り、「子供たちは本当によく戦ってくれた」と健闘をたたえた。 ◇努力のムードメーカー 粟田翔瑛捕手(3年) 三回表、先頭で迎えた打席で、いつもの右でなく、左打席に立った。「顔がこわ張っている選手が多く、即興で思いついた」。チームをリラックスさせるためだった。ベンチからは「お前打席間違えてるやろ」。チームに笑顔が戻った。 ムードメーカーとしてチームに欠かせない。だが、1月から急きょ捕手を任され、苦しんだ。小川浩監督は「状況判断力に優れる」と評価し、浮橋幸太投手(3年)も「1番バッテリー歴が長く、自分のことを理解してくれている」と信頼を置く。浮橋投手とは小学校からバッテリーを組んでいた。しかし高校では主に遊撃手。久しぶりに幼なじみの球を受けて「キレや球威、速度など格段に成長していた」と困惑した。 正捕手が務まるかと重圧だったが「だからこそ期待に応えようと必死に練習できた」。浮橋投手の球をなるべく多く受け、秋に正捕手だった中西陽選手(同)から投球の癖などアドバイスをもらい「中西は悔しさを抑えて教えてくれた」と仲間への感謝を忘れない。 試合後、浮橋投手は「配球もお互い考えが合って、投げていて楽しかった」。粟田選手は「負けて本当に悔しい」と言葉を詰まらせながらも「ノーサイン野球にもっと磨きをかけて、また夏に帰ってこれるよう努力します」と決意を新たにした。【岩本桜】 ◇チア28人も全力 ○…チアリーディングチーム28人の団長を務める梶本莉加さん(3年)は「選手たちは練習で積み重ねてきたことを出し切ってほしい」と祈り、声を枯らした。チアチームは同校にはなく、梶本さんらが校長に直談判し、2月中旬に結成。短時間で練習を重ね、選手や試合状況ごとに約20の振り付けを準備した。大舞台で最初は緊張した様子だった梶本さんも試合後「選手たちの頑張りに勇気と元気をもらえた。最後まで全力で応援できてうれしい」と振り返った。 ◇安打で阿波踊り ○…一塁側アルプスでは、安打が出る度に野球部員たちが阿波踊りを披露した=写真、池田一生撮影。県大会や四国大会では応援の演目に入れてはいなかったが、全国の舞台で徳島らしい応援をしたいと、初めて取り入れた。部員たちは、吹奏楽部の音頭に合わせてリズムよく踊り、スタンドを盛り上げていた。応援団長の大喜多秀任(しゅうと)さん(2年)は「甲子園で踊ることができてうれしい。選手たちにも、スタンドの熱い思いが届いたと思う」と晴れやかな表情で話した。