パイロット不足の航空業界を救う「VRシミュレーター」
パイロット不足の解消
ヘリコプターという、シミュレーションが最も難しい航空機での技術の証明ができた今、Loftはより収益性の高い航空機向けの市場を目指している。同社は現在、3台の大型固定翼機向けのシミュレーターを開発中で、大手航空会社とも交渉中だ。 航空業界の調査会社IBAによるとフライトシミュレーター市場の70%以上は、カナダの大手企業CAEが支配しているが、Loftは同社のシェアを奪おうとしている。 「Loftは他社の先を行く素晴らしい製品を持っている。固定翼機向けの市場においても、彼らは大きなポテンシャルを秘めている」と、ヘリコプターの訓練グループの会長でシミュレーターを使ったパイロットコースの設計者であるテリー・パーマーは述べている。 ■パイロット不足の解消 1980年代に登場したフルフライトシミュレーターのおかげで、航空会社は新人のパイロットを実際の旅客機で訓練する場合のリスクや、費用の削減に成功した。しかし、この高額なデバイスを所有できるのは最大手の航空会社のみで、そのほとんどは少数の訓練センターに集中している。そのため多くの商業パイロットは、年次のリフレッシュトレーニングや能力チェックを受ける場合に、最低でも数日間は勤務から離れて、そのための施設に向かう必要がある。 リーセンは、航空会社が主要空港の拠点にシミュレーターを設置して、この高価な時間の無駄を排除しようとしている。 米国の商業パイロットの訓練には、最大10万ドル(約1400万円)が必要で、旅行需要の急増で航空会社がますます多くのパイロットを必要とする中で、これは大きな問題となっている。ボーイングは今後の20年で67万4000人の新たなパイロットが必要になると予測している。 Loftは、ロサンゼルス市警を含むクライアントに累計40台のシミュレーターを納入しており、生産キャパシティを年間80台に拡大した。 米国を拠点とするISPのアースリンク創業者で、Loftが2022年に実施した2000万ドル(約28億円)のシリーズAラウンドを主導した投資家のスカイ・デイトンは、リーセンの会社が数十億ドルの収益を生み出す企業になる可能性があると考えている。「シミュレーター業界は何十年も興味深いことが何も起こらなかった静かな業界だ。変革の時が来ている」と彼は語る。 米議会が5月に可決した、FAAの認可基準の改正法案にも、シミュレーターの需要を高める可能性のある条項が含まれている。この条項は、商業パイロットのための迅速かつ低コストの「強化資格プログラム」を設計し、シミュレーターでの訓練時間を免許の取得に必要な1500時間の飛行時間に加算できるようにすることを求めている。 ■会社員時代に始めたプロジェクト リーセンがLoftのビジネスを思い立ったのは、1999年に自家用ヘリコプターの操縦免許を取得した際に、シミュレーターを用いた教習コストの高さに衝撃を受けたことがきっかけだった。彼は、シスコのエンジニアとして会社務めをしながら、自宅で子供たちと共にVRフライトシミュレーターの製作を開始した。