パイロット不足の航空業界を救う「VRシミュレーター」
航空機のパイロットが訓練に使用するFSDと呼ばれる高性能のシミュレーターは、コックピットを忠実に再現した巨大な機械で、最も性能が高いことを意味する「レベルD」の認定を受けたシミュレーターの価格は、約2000万ドル(約28億円)とされている。 しかし、スイスのLoft Dynamics(ロフトダイナミクス)と呼ばれる野心的なスタートアップの創業者でCEOのファビアン・リーセンは、この巨大な機械をVR(仮想現実)テクノロジーを用いて、よりシンプルにできると考えている。同社のヘリコプター向けのシミュレーターは、従来製品の10分の1の大きさで、コストも20分の1まで削減できる。アトランティックシティの連邦航空局(FAA)の研究所に設置されたLoftのR22シミュレーターの価格は、約25万ドル(約3500万円)だ。 リーセンは、同社のシミュレーターがパイロットの訓練コストを削減するだけでなく、パイロット不足の問題を解消する手助けになると考えている。「我々はシミュレーター業界全体を根底から覆すのです」と、彼はスイス語訛りの英語でフォーブスに語った。 Loftはその目標に向けた重要なハードルを既に突破した。同社のエアバスH125ヘリコプター向けのシミュレーターは先日、FAAの承認を受け、米国の安全規制当局に承認された初のVRシミュレーターとなったのだ。Loftのこのデバイスは、2022年に欧州航空安全機関(EASA)からも初のVRシステムとしての承認を受けていた。 同社のデバイスは、従来のシミュレーターほどは多機能ではないため、米国の商業パイロットの定期的な能力テストには使用できないが、ヘリコプターの操縦免許の取得を目指す人々の教習には使用できる。リーセンによると、Loft のVRベースのシステムは「トレーニングデバイス」としての承認をFAAから受けており、同社は現在、レベルDのフルフライトシミュレーターとしての承認を獲得しようとしている。 VRシステムの利点には、360度の視野に加えて従来のシミュレーターよりも正確な奥行き感が得られることが挙げられる。これにより、低空飛行における操縦や、緊急着陸の訓練をより効果的に行える。FAAとEASAは、Loftのシミュレーターをヘリコプターで荷物を運ぶための訓練用にも認定している。「レベルDシミュレーターでは、この訓練はできない」とリーセンは語った。 Loftが突破した最も困難な課題の一つは、VR空間の中に、「手で触れられるような形でコントローラーやディスプレイを正確に表示する」という規制当局の要件を満たすことだった。同社のシミュレーターは、ゴーグルを着用したユーザーの視界の中に、コックピットを再現し、8台のカメラがユーザーの動きを追跡して、操作中の手足の仮想アバターを生成する。