なぜ森重航はスピードスケート男子500mで銅メダルを獲得し”お家芸復活”の狼煙を上げることができたのか?
北京冬季五輪のスピードスケート男子500mが大会9日目の12日、国家スピードスケート館で行われ、森重航(21、専修大)が34秒49で銅メダルを獲得した。 今シーズンから初めてナショナルチーム入りを果たし、五輪代表を射止めた伸び盛りの森重は、カーブのたびに加速する得意のスケーティングを披露。日本が「お家芸」としてきた男子500mに2010年バンクーバー五輪銀メダルの長島圭一郎、銅メダルの加藤条治以来、3大会、12年ぶりとなる通算10個目のメダルをもたらした。 前回平昌五輪銅メダリストの高亭宇(24、中国)が34秒32の五輪新記録をマークして金メダルを、車ミンギュ(28、韓国)が34秒39で2大会連続の銀メダルを獲得。日本勢は村上右磨(29、高堂建設)が34秒57の8位、優勝候補の新濱立也(25、高崎健康福祉大職員)はスタート直後のつまずきが響いて35秒12の20位だった。
フライングにも集中力切らさず
冬季五輪で金1、銀4、銅4と合計9個ものメダルを獲得。男女を通じて日本のスピードスケート史上で最多を数え、いつしか「お家芸」と呼ばれた男子500mに生じていた空白期間に、すい星のように現れた新星がピリオドを打った。 最後から2つ目の第14組。満を持して号砲に反応した森重だったが、同走のビクトル・ムシュタコフ(25、ROC)がフライングを取られる。仕切り直しを余儀なくされただけでなく、レース全体のスタートも遅れ、さらに氷面の補修でも中断が生じていた。 それでも集中力を途切れさせずに、精かんな表情でスタートラインに立つ。果たして、最初の100mを全体30人中で5位タイとなる9秒63で通過。前半の100mが速いムシュタコフに先行されても焦らず、最初のカーブでぐんぐん加速する。 バックストレートでの最高時速は銀メダリスト・車の61.2kmに迫り、金メダリスト・高の59kmを上回る60.8kmをマーク。膨らみを防ぐために減速する選手が多い、インコースを回った第2カーブでもスピードはほとんど落ちない。 コーナーの出口ですでにムシュタコフをリードしていた森重は、そのままフィニッシュラインを滑り抜けた。この時点で3位となる34秒49を、新濱、今シーズンの世界最高記録を持つローラン・デュブルイユ(29、カナダ)の最終組が上回れなかった瞬間に、3大会、12年ぶりとなる男子500mのメダルが日本にもたらされた。 大仕事を成就させた森重が、お家芸の継承者として初々しい声を弾ませた。 「スタートラインに立ったときには『いつも通りいこう』という気持ちでいましたけど、フライングが一度あったことで、少しプレッシャーのかかるスタートとなってしまいました。そのなかでもやりたいことができたし、いまの自分が持っている力を発揮できたという意味で、レースという点では本当に満足しています」