なぜ森重航はスピードスケート男子500mで銅メダルを獲得し”お家芸復活”の狼煙を上げることができたのか?
森重の前組だった村上は、最初の100mを全体で4位となる9秒54で通過。しかし、中盤以降の滑りがやや小さくなって34秒57の8位にとどまった。 そして、最終組の新濱はデュブルイユのフライングで再スタートとなった直後につまずいてしまう。わずかなミスでも取り返しがつかないのが500mの怖さであり、35秒12の20位に「何が起きたのか、自分でも理解できない」と困惑した表情を浮かべた。 そのなかで表彰台に立った森重は、こんな言葉を残している。 「(日本勢の)3人がメダル候補と言われているなかで、誰か一人でも、という思いで滑っていたので、そのなかで自分が取れて安心しています」 最も身近なライバルであり、ともにお家芸の復活を担う仲間でもある3人は選手村でも同部屋で、状況が許せばリビングで同じ時間を共有して意識を高め合ってきた。 逆襲を誓ったのが新濱だけだった平昌五輪直後から、村上と切磋琢磨し合う状況が生まれ、人口よりも牛が多いことで有名な酪農の町、別海町時代から新濱へ憧憬の思いを抱きつつ、天性の才能に努力を融合させて急成長した森重が加わった。 100mを通過してからの400mで要したタイムを比べれば、森重の24秒87は金メダリストの高の24秒90を上回り、全体でも4位につけている。類稀なポテンシャルを存分に解き放てたのも、金メダル獲得を期待されるプレッシャーが村上、そして新濱の2人だけに向けられていた状況と関係しているのかもしれない。 実際、気持ちを切り替えるように、新濱は500mの結果をこう総括している。 「日本男子短距離としてメダルが取れてよかったと思っている」 村上はこれで北京五輪を終えるが、森重と新濱は18日に男子1000mが待つ。 「1000mに関しては世界のシニア大会で未経験の種目なので、どこまでいけるのか、挑戦という意味でも全力で頑張っていきたいと思います」 初々しい表情で森重が前をみすえれば、新濱は捲土重来を誓った。 「1000mまでに修正して、レースをもう一回楽しみたい」 お家芸復活への狼煙をあげた若き旗手たちには、長野五輪で銅メダルを獲得した清水を最後に途切れている、1000mの表彰台に24年ぶりに立つ大仕事が待っている。