ジュビロ磐田に遠藤保仁の移籍効果はあったのか?
左足から小刻みなステップとともに助走をスタートさせた。迎えた6歩目。ジュビロ磐田の「50番」が右足のインフロント部分をこすり上げる、最も得意とする直接フリーキックの体勢に入った。 敵地サンプロ・アルウィンで松本山雅FCと対峙した、10日の明治安田生命J2リーグ第25節。ジュビロが圧倒的に試合を支配しながらスコアレスドローに終わった一戦で、ガンバ大阪から期限付き移籍で加入したばかりの40歳のレジェンド、元日本代表のMF遠藤保仁がヒーローになりかけた。 「距離的にも角度的にもよかったので、決め切りたかったかな、と。練習の段階からフィーリングも悪くなかったので、もう少し精度を高めていきたい、と思っています」 試合後のオンライン取材に臨んだ遠藤がいつもと変わらない、ひょうひょうとした口調で振り返ったシーンが訪れたのは後半25分。山雅ゴールに向かって正面からやや左。距離にして約18メートルと、右利きの選手にとって絶好の位置で獲得した直接フリーキックだった。 ボールの背後に立ったのは遠藤と左利きのDF伊藤洋輝。ただ、山雅の守護神・村山智彦も、壁を作った6人の選手たちも、キッカーは遠藤だと信じて疑わない。果たして、遠藤の右足から放たれたボールは予想を上回るスピードを伴って、カーブの軌道を描きながら壁を越えて急降下していく。 ゴール左上に照準が定められた弾道に村山も必死に反応し、とっさに右腕を伸ばすも届かない。新天地でのデビュー戦を、均衡を破る先制ゴールで飾るのか。ジュビロに関わる誰もが思い描いた最高の瞬間を打ち砕くように、ボールがクロスバーに弾かれる鈍い金属音が響きわたった。
2001シーズンから実に19年9カ月にわたって在籍し、ガンバが獲得した9つのタイトルすべてに関わってきた大ベテランの期限付き移籍が発表されたのが5日。ジュビロに合流した6日は、1-2の逆転負けを喫した京都サンガとの前節に出場した主力選手たちは別メニュー調整だった。 「見られていたのは気づいていました。初めてプレーする選手がほとんどなので、僕のプレーをできる限り吸収していいものを出したいという、みんなの前向きな心構えだと思っています」 リカバリーメニューを終えても残っていた主力組が、自身の一挙手一投足に注ぐ熱い視線を感じていたと、遠藤も6日の加入会見で打ち明けている。実質的な全体練習を消化できたのは3日間。それでも就任2戦目の鈴木政一監督は遠藤を遠征メンバーに加え、ボランチとして先発も託した。 「初めての試合だったので、選手の特徴を探りながらやっていました。(ガンバで一緒だった)今野(泰幸)と大森(晃太郎)以外は初めてでしたけど、特に問題はありませんでしたし、特に(ボランチの)相方の山本(康裕)とはスムーズにプレーできたと思います。今日出た選手の特徴はだいたいわかったので、あとはよりいいコンビネーションを作って、さらに多くのチャンスを作っていきたい」 フル出場した山雅戦後に、遠藤はこう打ち明けている。練習と公式戦とでは、味方の動きも違ってくる。3日間で集積したさまざまな情報に、微妙な修正を加える作業を繰り返しながら戦っていた。もっとも、その3日間で遠藤が代役の効かない存在だとジュビロの選手たちもあらためて気がついた。