理想の未来は「自然林のよう」。妥当な競争と自分らしさ生かす調和的社会
人口が減少し、社会の成長が見込めない時代といわれます。一方で、科学技術の進化が、高齢化の進む日本の未来を、だれにとっても暮らしやすい社会に変えるのではないかともいわれています。わたしたちは一体どんな社会の実現を望んでいるのでしょうか。 幸福学、ポジティブ心理学、心の哲学、倫理学、科学技術、教育学、イノベーションといった多様な視点から人間を捉えてきた慶応義塾大学教授の前野隆司さんが、現代の諸問題と関連付けながら人間の未来について論じる本連載。9回目は「理想的な未来」がテーマです。 ----------
平和、行き渡った満足感、豊かさ……。江戸時代の日本
前回は世界平和というマクロな視点から未来について述べましたが、今回は僕が思い描く、ミクロレベル(生活レベル)から見た理想的な未来について述べましょう。 江戸時代の日本について書かれた『シュリーマン旅行記 清国・日本』(講談社学術文庫)をご存知でしょうか。いくつかの私の書籍(たとえば『幸せの日本論』(角川新書、2015年))でも引用した文章です。 シュリーマンは、江戸時代末期の日本に一ヶ月滞在した際の様子について、以下のように述べています。 「団子坂(文京区千駄木)の丘から眺めると、江戸は森の真ん中にある二つの広大な街のようである。我々は数々の美しい庭園と公園を横切って、さらに王子まで旅を続けた。」 「日本人はみんな園芸愛好家である。日本の住宅はおしなべて清潔さのお手本になるだろう。」 「日本人が世界で一番清潔な国民であることは異論の余地がない。」 「この国には、平和、行き渡った満足感、豊かさ、完璧な秩序、そして世界のどの国にも増してよく耕された土地が見られる。」 「玩具の(中略)仕上げは完璧。しかも仕掛けが極めて巧妙なので、ニュルンベルグやパリの玩具製造者はとても太刀打ちできない。」 「彼ら(日本の役人)に対する最大の侮辱は、たとえ感謝の気持ちからでも現金を贈ることであり、また彼らの方も、現金を受け取るくらいなら『切腹』を選ぶのである。」