会社に壊されない生き方(11) ── 「プライド」があるから辞められない
THE PAGE
労動と生活の問題に悩む若者が後を絶たない。会社のために働くことで、死を考えたり、体を壊すくらいなら、会社を辞めよう。それが本連載で取り上げてきた「会社に壊されない生き方」だ。若者の労働・貧困問題に取り組むNPO法人「POSSE(ポッセ)」(東京都世田谷区)の代表を務める今野晴貴さん(34)は「辞められないのは、その会社にだまされているからではなくて、本人にも『プライド』があるから、という見方も大切」と話す。
京都市と仙台市に支部がある「POSSE」には、年間3000件もの相談が若者らから寄せられる。このうち、ブラック企業に入社して、プライドを掛けて働いた末に健康を害した人の事例が、今野さんの書籍『ブラック企業2「虐待型管理」の真相』(文藝春秋)でも紹介されている。 関西の私立大学を卒業したAさんは、とある不動産会社に入社した。研修が終わって職場に配属されると、朝9時出社で夜11時半に退社するという長時間労働が日常化し、月の残業時間は200時間に達した。社長は「人間は寝なくても死なない」という持論の持ち主で、社員は皆、長時間労働がおかしいとは思っていないようだった。 中学時代は柔道部、高校時代はラグビー部に所属していたAさんには、これらの部活で苦しさを乗り越えてきたという自負があった。退職する同期も出てきたが、部活での経験を思い出しつつ自分は勤め続けようと考えていた。
過酷な働き方を心配する恋人の言葉も「頑張っているのになんでそんなことを言うねん」と邪魔に感じ、実家からの電話やメールも無視する。やがて、Aさんは起きてから寝るまでの間、ひどい頭痛に襲われるようになった。症状は次第にひどくなり、結局勤め続けるのが困難になって入社後約半年で退職せざるをえなくなったという。 今野さんのところには、こうした過酷な労働に苦しむ本人の親からの相談も舞い込む。連日仕事で帰宅が遅いのを親が心配して「その会社は大丈夫か」「ろくに寝ていないのではないか」と声をかけても、本人は「大丈夫だから」「そんなことを話している暇はない」「それより明日やることがある」「持ち帰りの残業があるんだ」などと受け付けない。