会社に壊されない生き方(11) ── 「プライド」があるから辞められない
しかし、後日、今野さんが本人と話をすると、「あの時は会社のことしか考えられないくらい追い詰められていたが、やっぱりそこで負けたくないという気持ちもあった」と当時の心情を打ち明けたという。 過酷な労働環境であっても、「負けたくない」「頑張りたい」という思いで働き続けるが力尽き、倒れてしまう。 今野さんは、本人に問題があるのではなく、会社側が意図的に本人のプライドにつけ込むケースが多々あると見ている。「『お前はダメだ、どこに行っても通用しない』『こんな状態で悔しくないのか?』などと言われて、このまま辞めるのは悔しい、と思う人は多いのです。会社側はそういう心理を逆手に取るのです」。 過重労働を心配する周囲の助言を拒絶し、会社から「逃げない」選択をする人について、精神科医の泉谷閑示さんは「その段階ですでにうつ状態に入っており、視野狭窄が起きている可能性が高いでしょう。だから、自分の健康状態の危なさがわからず、人の忠告も耳に入らない。この状態になると、本人が気づいて改めるのはまず困難なので、誰かが強制的にストップを掛けないと行くところまで行ってしまいます」との見方を示す。
泉谷さんの指摘は、連載第9回に登場したイラストレーターの汐街コナさんが、長時間労働の会社在籍中に経験した「長時間労働に伴う疲労や睡眠不足により判断力が削がれた」状態を思い起こさせる。当時の汐街さんは、地下鉄のホームから飛び込みかけて、危ういところで踏みとどまった。 今野さんによると、過重労働の職場で頑張り続ける人が「このままではダメだ」と気づくのは「倒れて入院したとき」が多い。このタイミングを見逃さず、本人に助言できるか否かが運命の分かれ道になるという。そこからもう1回職場に戻ろうとすると、結局自殺に至るケースもあるそうだ。 「悪質な企業、違法な企業に対しては、自分が壊される前に労働法上の権利を行使するのが当たり前だと思ってほしい」と訴える今野さん。「悲しいことですが、過労死を引き起こす企業が現にある、という前提で生きるべきです」。 NPO法人「POSSE」では、下記のメールアドレスで相談を受け付けている。 soudan@npoposse.jp (取材・文:具志堅浩二)