前回の大噴火から、300年超の富士山…!なんと「噴出待ちのマグマ」は、東京ドーム240杯分
わかりやすく「東京ドーム」で換算すると…?
東京ドームの体積は0.00125立方キロメートルなので、1立方キロメートルは、東京ドーム800杯分に相当する。 前述のように3200年前以後のステージ4とステージ5では、1000年あたりの噴出率は約1立方キロメートルである。なかでも最大規模の貞観噴火では、東京ドーム約1000杯分のマグマを流出し、広大な青木ヶ原溶岩を残した。また、二番目の規模の宝永噴火では、東京ドーム約500杯分のマグマを上空に噴き上げ、関東一円に火山灰を降り積もらせた。 そして、宝永噴火後の約300年間で0.3立方キロメートルのマグマが地下に蓄積しているということは、東京ドーム約240杯分のマグマが次の噴出を待っていることを意味する。 さらに近年では、2009年に富士山周辺の地面が北東-南西方向に伸張した。GNSSの観測によれば、1年あたり2センチメートル伸びたことがわかっている。 この現象を地下の動きに換算すると、東京ドーム8杯分のマグマが地下15メートル付近で増量したことに相当するのである。
穏やかな人が「ストレスを溜め込んでマジ怒り」したよう
たしかに富士山はいま、300年間の沈黙を保ったままであるが、今後も噴火をまったく起こさずに100年くらい、せっせとマグマを地下にため込むこともありうる。 人間は自然のメカニズムを、ごく一部しか理解していない。休止期はまだ延びることもあるかもしれないのだ。だがそうなると、次に噴火したときにはさらに大量のマグマを噴出することになるので、防災上はあまり歓迎したいことではない。 一般に、マグマがときどき、ほどよく出ている分にはたいした噴火にならないのだが、ため込んでいっぺんに出されると、非常に厄介なのである。人間にたとえれば、ふだんあまり怒らない人がストレスをため込んで怒ったらとても恐い、というのに似ている。
噴火の休止期はいつ終わるか
富士山の休止期がどのくらい続くかを考えてみよう。これまでの噴火史を振り返ってみると、平安時代から室町時代にかけての350年間に、噴火の記録がない時期がある。 具体的には1083年から1435年までの間で、歴史記録に富士山噴火の記述がまったく残っていないのだ。したがって300年間の休止期があと50年くらい延びても、それほど不思議なことではない。 もっとも、古文書に記録が残らなかった噴火が存在する可能性も考えられる。したがって、本当に350年間噴火がなかったかどうかには、議論の余地がある。 一方で、過去2000年間の歴史時代には、富士山は75回ほどの噴火を記録している。これを単純に割り算してみると、30年に1回くらいは噴火を起こしてきたことになる。なお富士山の噴火年代の推定に関しては、放射年代測定などを用いて地質学的な調査から噴火年代を割り出す方法と、古文書などの文献記録から噴火した年を探り当てる方法の二つがあるが、ここでは両者を合わせて噴火の頻度を計算している。 これらを考えあわせると、富士山が江戸時代から300年間もマグマを出してこなかったことは、たしかに異常なことである。 マグマを地下にためつづけている富士山は、不気味な存在であることは間違いない。 だが、現在では富士山を取り囲むように数多くの観測点で、低周波地震、山体の膨張、火山ガスの変化などの諸現象が観測されている(図「富士山の観測点」)。噴火の兆候が数週間から1ヵ月前には必ず発見できる態勢ができあがっているのだ。 直前予知は十分に可能と言っても差し支えないだろう。
鎌田 浩毅(京都大学名誉教授)