Netflix映画『喪う』父を看取る三姉妹の比較できない幸せの形【今祥枝の考える映画】
BAILA創刊以来、本誌で映画コラムを執筆している今祥枝(いま・さちえ)さん。ハリウッドの大作からミニシアター系まで、劇場公開・配信を問わず、“気づき”につながる作品を月1回ご紹介します。第31回は、ハリウッドの演技派キャストが三姉妹役で名演を披露する感動の人間ドラマ『喪う』です。 【画像】今祥枝のおすすめ映画
死期が近い父親を実家で看取るために、同居する次女レイチェル(右、ナターシャ・リオン)のもとに久々に集まってきた姉ケイティ(左、キャリー・クーン)と妹クリスティーナ(中央、エリザベス・オルセン)。どこかよそよそしく緊張した空気が漂う。
映画『喪う』
■三者三様の人生を送る三姉妹が、死期の近い父親のために集まるが…… 読者の皆さま、こんにちは。 最新のエンターテインメント作品を紹介しつつ、そこから読み取れる女性に関する問題意識や社会問題に焦点を当て、ゆるりと語っていくこの連載。第31回は、父親の病床に集まり、久々に顔を合わせた三姉妹の葛藤を描く会話劇『喪う(うしなう)』です。 30代、40代と年齢を重ねるにつれて、親しい人々の死と向き合う機会は必然的に増えていきます。悲しいことですが、このような深い喪失の体験は、誰もが避けては通れない道でしょう。 このテーマに正面から向き合った『喪う』(原題『His Three Daughters』)は、いつ死を迎えてもおかしくない父ヴィンセント(ジェイ・O・サンダース)のもとに、疎遠になっていた三姉妹が集まり、久々に顔を合わせるところから始まります。 ニューヨーク、マンハッタンにある瀟酒なアパートの寝室に横たわり、心電図モニターにつながれ、モルヒネの点滴を受けているヴィンセント。次女のレイチェル(ナターシャ・リオン)が実家であるこのアパートに住み続けて父親の面倒をみていました。そこへ、長女ケイティ(キャリー・クーン)と末っ子のクリスティーナ(エリザベス・オルセン)がやってきます。三者三様の生き方を送る彼女たちの間には、静かに張り詰めた緊張した空気が漂います。 近所のブルックリンに住む長女ケイティは、仕事をしながら子どもを育てており、きびきびとした態度と口調からは自身が有能であることへの自負も感じられます。一方、髪を赤く染めた次女レイチェルは独身でマリファナの常習者。どこかだらしなく怠け者のように見えます。そんなレイチェルに対して、最初からギスギスとした態度で臨むケイティ。そんな二人の間を取り持つようにバランスを取る三女クリスティーナは、愛する夫と娘とともに田舎に暮らす、穏やかな女性です。 意識不明でベッドに横たわる父親を前にして、気が張る3人。しかし、彼女たちの複雑な胸の内が明らかになるにつれ、姉妹の取り繕うような関係性は一瞬にして崩れ去るのでした。