Netflix映画『喪う』父を看取る三姉妹の比較できない幸せの形【今祥枝の考える映画】
お気楽に生きているようでいて繊細で思いやりのあるレイチェルを演じているのは、ハスキーボイスに独特の存在感が魅力的なナターシャ・リオン(兼製作総指揮)。映画や大ヒットドラマ『ロシアン・ドール:謎のタイムループ』や『ポーカー・フェイス』の主演だけでなく、プロデューサー、クリエイターとしても才能を発揮。
良き母親で穏やかな性格のクリスティーナ(左)を演じるのは、映画『アベンジャーズ』シリーズやドラマ『ワンダヴィジョン』『ラブ&デス』のエリザベス・オルセン。結婚もせずふらふらしているように見えるレイチェルへの当たりが厳しい、しっかり者のケイティ(右)役は、映画『ゴーストバスターズ』シリーズやドラマ『ギルデッド・エイジ -ニューヨーク黄金時代-』のキャリー・クーン。二人ともナターシャ・リオンとともに製作総指揮を務めている。
■未婚で子どもがいないフリーターという生き方は、人生の敗者なのか? 自分たちもそれぞれの家庭を持つ中で、滅多に会う機会のなくなった、あるいは会ったことのない遠い親戚が集まる冠婚葬祭の席で面倒な体験をした、揉め事が起きたという話は、よく耳にしますし、私自身も経験があります。 三姉妹の場合、実はレイチェルだけが血のつながりがない姉妹であることが会話の中でわかります。ケイティのレイチェルに対する冷たい態度とは裏腹にケイティとクリスティーナとの距離の近さに、昔からレイチェルが浮いた存在であることが伝わります。 何よりもレイチェル自身がアウトサイダーであることを自覚し、遠慮がちに振る舞い、居心地の悪い思いをしていることがわかって複雑な思いも。父親と長年暮らし、ずっとそばに寄り添って生きてきたのはレイチェルなのですから。 このシチュエーションで繰り広げられる会話劇には、プロデューサーも務める実力派キャストのキャリー・クーン、ナターシャ・リオン、エリザベス・オルセンらの名演も相まって、誰もが思わず「わかる!」と膝を打ちたくなる瞬間が散りばめられています。 自分たちは家庭を持って独立したとはいえ、レイチェルにすべてを任せっきりだったのに、自分こそが一家の長であるといった態度のケイティ。しかし、携帯電話での通話の内容から、ケイティの人生も見かけほど完璧ではないようです。 クリスティーナも然り。彼女はマメに家族に電話を入れ、毎日のように娘の様子を聞き、毎回娘にありったけの愛の言葉を伝えます。しかし、あたたかく理想的な家庭を築き、主婦であり母親としての人生に満ち足りた様子の彼女も、人知れず深い苦悩を抱えています。 レイチェルには良き理解者であるボーイフレンドがいますが、コンプレックスがあることは間違いありません。しかし、姉と妹のことをやんわりと受け止めるレイチェルは、終始戸惑ったような、哀しいような、それでいてどこか達観しているようでもあります。その姿は繊細で傷つきやすく、3人の誰よりも孤独で、愛情や絆というものを切望しているようにも見えて、その愛情深さとやさしさに心を寄せずにはいられないのでした。 さて、ここまで読んで、この中の誰がいちばん幸せな人生を歩んでいると思うでしょうか? 未婚か既婚か、子どもの有無、仕事を持つか専業主婦か。あるいは、定職につかずに親に寄り添う生き方は、ケイティがレイチェルに対する言動にもにじむように、またはレイチェルがコンプレックスを抱いているように人生の敗者なのでしょうか?