「人間には陰謀論的な思考回路がつねにある」 作家・小川哲が『スメラミシング』で描いた信仰と宗教
2015年にデビューし、2023年に満州を舞台にした長編『地図と拳』で『直木賞三十五賞』を受賞した小説家の小川哲が、新作『スメラミシング』(河出書房新社)を10月10日に刊行した。6つの短編から成る作品集で、信仰や宗教、陰謀論がテーマとなっている。 【画像】小川哲 小川は、人にはそもそも陰謀論的な思考回路がつねに備わっており、さらに小説というジャンルは、「人々が陰謀論を信じるための想像力の土台をつくっている」と語る。 いったいどういうことなのだろう? 人間と信仰の関係や、小説の題材に陰謀論を選んだ理由について、インタビューで聞いた。
なぜ宗教や信仰をテーマにしたのか?
―『スメラミシング』は6編の短編が収録されており、すべて宗教や信仰がテーマになっています。なぜこのテーマを選んだのでしょうか? 小川:もともと、小説の原点は聖書にあるんじゃないかという考えがあって、最初に収録されている『七十人の翻訳者たち』という作品を書きました。 そもそも、なぜ人は他者に対して何かを話したり、語りかけたりするんだろうと考えたとき、そこには宗教という存在があり、自分が信じるものを他人に伝えて、信じさせるために魅力的なお話をつくるんじゃないかと思ったんです。 宗教とか神様について考えることは、根源的に人間の欲望に内蔵されているもので、それについて考えることは、小説について考えることにもつながるだろうと。人々の欲望を満たそうという、僕ら小説家が普段しようとしていることを、いろいろな角度から考えてみたかったというのがあると思います。 ―宗教と小説のあいだには、つながりがあるんじゃないかと……。小説家という職業の本質を考えることは、小川さんと同姓同名の小川哲さんが主人公として登場する『君が手にするはずだった黄金について』とも接続しているように感じます。 小川:結局僕は小説家なので、小説について考えている時間が1番長い。人は仕事や趣味とか、自分が最も興味のあることについてたくさん考えるものだと思います。自分が普段考えていることをどのように他のものとつなげるか、それによって見えかたがどう変わっていくかということは、僕が小説を書くときに一番大事にしていることです。