『グッドモーニング, ベトナム』スランプのロビン・ウィリアムズを甦らせたマシンガントーク
1965年、ベトナム戦争は泥沼化し、サイゴン市内ではベトコンによるテロが頻発するようになっていた。そんな状況下、米軍サイゴン放送局は兵士の士気高揚のためギリシャのクレタ島から1人の人気DJを呼び寄せる。エイドリアン・クロンナウア空軍上等兵。着任するや否や軍指定の推薦曲を無視し、”グーッドモーニン、ヴィエトナーム!!”のシャウトと共に、際どいジョークとマシンガントークで一気に兵士たちの心を掴んだクロンナウアだったが、軍の上層部からは危険視される。
大きく改訂された実在DJによる脚本
映画製作において、巧みな脚色によって事実が観客にとって好ましい内容に書き換えられることはよくある。バリー・レヴィンソン監督、ロビン・ウィリアムズ主演の『グッドモーニング, ベトナム』(87)も然り。脚本の草案は、主人公のモデルである米軍ラジオ局AFRSのDJだったエイドリアン・クロンナウアが自身の体験を綴ったもの。1979年に書かれたオリジナルの脚本は、何度か改訂され、その後ロビン・ウィリアムズが主役を演じることが決まった段階で、半分以上書き換えられる。ウィリアムズの伝記によると、クロンナウアに関する記述で正しいのは45%程度ということになっている。たったの5%という説もある。 そこを少し解説しよう。例えば、赴任早々クロンナウアがサイゴンの通りで見かけたアオザイを着た少女に一目惚れし、自転車を奪って追いかけるシーン。また、アメリカ軍がベトナム人との交流促進のために主催する英語教室の教壇に立ったクロンナウアが、ストリート・スラングを炸裂させて生徒たちを困惑させるシーン。そして、DJをやりたいと申し出たクロンナウアを乗せたジープが、ベトコンが仕掛けた爆弾によって横転してしまうシーン。クロンナウアによると、それらはすべてプロットのための作り話であり、彼の身に起こったことではないのだとか。「もしそれが事実なら私は今もレブンワース*にいたはずだ」とは本人の弁だ。 何よりも、決定稿最大の改訂点はクロンナウアのキャラクター設定だ。ウィリアムズ扮するクロンナウアは、DJブースの外でも破天荒な行いを繰り返し、ベトコンだとは知らず現地の少年と友情を紡ぎ、現実を目の当たりにして深く傷つく。軍から見れば典型的な反逆児だ。一方、実物のクロンナウアは名誉除隊後に弁護士となり、2004年の大統領選ではジョージ・W・ブッシュ再選キャンペーンで副委員長を務めたバリバリの共和党員だった。 *)レブンワースには米軍の軍事刑務所、アメリカ合衆国教化隊(USDB)がある。