青春18きっぷ“改悪”で失われる「豊かな旅」 ネットで不満大噴出、大幅ルール改変の裏にあるJRの狙いとは
自由度の減少に反発続出
ところが、10月24日にJR旅客6社が発表した冬季青春18きっぷのリリースによると、今度の冬季発売から、 「ひとりの連続利用」 に限られることになった。1か月の利用期間の好きな日に1日ずつ計5回利用したり、1枚を複数人で共用したりすることはできなくなる。 利用期間は変わらず12月10日から翌年1月10日までで、価格も5日分が1万2050円と従来通り。さらに、短期間の旅行にも使える「3日分」も1万円で新たに設定された。これまで使えなかった自動改札の使用が可能になるメリットもある。 とはいえ、今回のルール変更は、多くの利用者の旅行欲を喚起し、鉄道利用の自由度を担保してきた青春18きっぷの根幹に関わるものといえるだろう。発表直後から、SNS上には 「改悪」 「(今までとは)完全に別物」 など、否定的な意見が多く寄せられた。 「日帰り旅行ができなくなる」 「3日や5日を連続して休めない社会人には使いづらくなる」 など、端的な不便を挙げた意見や、 「(もともとの対象層である)高校生が2泊3日や4泊5日の旅が気軽にできるわけがない」 「高校生が複数人集まって日帰りみたいな利用方法ができなくなる」 など、若い世代の鉄道離れを懸念する声もあった。 「十人十色の使い方で楽しめたのに…」 「一番の魅力である自由さがなくなった」 と、従来の青春18きっぷの「趣旨」を踏まえた見解も提示された。 NHKなどのメディアも利用者の反応を報道したほか、元のルールに戻すようネットで署名を集める動きも表れた。「一商品」に対する反応としては異例といえる。
三セク乗車と省力化のはざま
今回のルール変更の問題点を三つに分けて整理したい。 1.利用者とJRの「改善要望」が一致していない。 2.既存のユーザーのニーズを反映した変更になっていない。 3.実質的な「値上げ」を含む変更について、理由や狙いが十分に説明されていない。 まず(1)について。青春18きっぷは自由度が高いとはいえ、実は近年は使いづらくなり、改善を求める声もあった。大きな理由のひとつが、整備新幹線の開業にともなう 「並行在来線の第3セクター鉄道化(JRからの経営分離)」 だ。北陸新幹線、東北新幹線、九州新幹線、北海道新幹線の開業にともない、並行する信越本線、北陸本線、東北本線、鹿児島本線、江差線がJRから地元の第3セクターに移管され、青春18きっぷの利用範囲から次々に除外されてきた。その総距離は 「800km」 を超える。一部では、三セク鉄道に囲まれ「飛び地」のように残されたJR区間に乗れるよう、三セク鉄道の通過を認めた区間もあるが、あくまで例外だ。 こうした状況が進むにつれ、青春18きっぷユーザーからは 「多少値段が高くなってもいいから、並行在来線の三セク鉄道にも乗れるようにしてほしい」 といった声が上がっていた。JRと三セクの共同利用には例があり、JR東日本が発売する「週末パス」が挙げられる。関東甲信越から南東北にかけてのJRと14の鉄道に乗れるフリー乗車券である。 JR以外の鉄道会社への運賃配分は明らかにされていないが、ある鉄道会社によると、1枚につき数円の売り上げが割り当てられるといわれる。正規の運賃に比べればわずかな額だが、その鉄道に乗らない人からも収入が得られることから、参画する会社にも十分メリットがあるという。こうした仕組みは青春18きっぷにも応用できるだろう。 しかしながら、今回のルール変更においては、こうした課題には全く対処されていない。むしろ、 「JR側の省力化」 を進めることが主眼だったといえる。具体的には、自動改札の通過を可能にすることで、有人改札の負担を軽減することだ。これまで青春18きっぷの利用期間に、有人改札を通ろうとする客が行列し、混雑が課題となっていたことは事実だ。 一方で、「一定の期間内から任意の5日を選ぶ」という利用方法は自動改札機になじまず、あらかじめ利用する日付と日数を決めておく必要が生じた。「連続3日」「連続5日」「複数人でなくひとり限定」の新ルールは、自動改札の機能に基づく。鉄道現場の人手不足もあり、有人改札の混雑解消のために青春18きっぷの自由度が犠牲になった形だ。 「(値段は上がっても)並行在来線の三セク鉄道に乗れるようにしてほしい」 というユーザーの要望と、駅などの現場の省力化を目指したいJR側の問題意識は、全く重ならなかった。商品開発・提供においては不幸なケースといえるだろう。