青春18きっぷ“改悪”で失われる「豊かな旅」 ネットで不満大噴出、大幅ルール改変の裏にあるJRの狙いとは
転売対策が利便性を阻害
もとより、青春18きっぷ利用期間の有人改札の混雑は、利用者にとっても解決してほしい課題だった。最も単純な解決法は、1枚で5日分でなく、1セット5枚にし、1回ずつバラして使えるようにすることだ。 とはいえ、これはかなわない。バラで転売される懸念があるからだ。長年の愛用者にはいうまでもないが、1995(平成7)~1996年冬季までの青春18きっぷは「5枚つづり」で発売され、1回の利用ごとに1枚の券を使う仕組みだった。明快な仕組みだったが、金券ショップなどが大量購入しバラ売りするケースが当時も多く、問題視されていた。 「1枚化」以降も、回数の余った青春18きっぷが金券ショップやネットオークション、フリマアプリなどで転売されるケースは相次ぎ、転売対策は青春18きっぷに付いて回った。一部ではクレジットカードで購入された青春18きっぷが安値で転売されることもあり、違法性の高いクレジットカードの現金化を助長する恐れもあった。 今回のルール変更は、一部の逸脱行為のために、 「正当な利用者の利便性」 が阻害された側面もある。とはいえ、利便性を損なうことなく転売対策も備える方法はあったのではないか。 例えば、ICカード乗車券の利用だ。青春18きっぷの利用者で有人改札が混雑するのは都市部の主要駅が多く、それらの大半はICカードに対応している。記名式ICカードに青春18きっぷの情報を搭載すれば、転売対策もより実効的になるだろう。こうした工夫がなされなかったことには、JR側の消極姿勢をうかがわせる。
果たされないJRの説明責任
ふたつ目の問題点は、既存のユーザーのニーズを反映した変更になっていないことである。上記の通り、三セク化への未対応など、いまだ実現されていないニーズもあるが、それにも増して、今回のルール変更は既存のニーズからも外れてしまった。 それが、再三述べた通り「期間内の任意の日程で利用できる」点だ。1か月ないし1か月半以上にわたる期間中、好きなタイミングで5回の鉄道旅行ができる。これは類例の少ないユニークな「商品」である。 例えば、こんな使い方をする人がいる。購入の時点では3日程度しか利用の予定は決まっていなくても、取りあえず青春18きっぷを手にし、残りの2回分を 「後から考える」 というものだ。予定があって乗車券を買うのではなく、既に買った乗車券を基に旅行の動機付けがなされる。ユーザーの商品に対する期待感や信頼度をよく表している。 こうした使い方を、JRは熟知しているはずである。というのも、青春18きっぷの購入者にアンケート用紙を配布し、利用日や利用区間、利用目的、性別、年齢などを問うているからだ。少なくとも二十数年分の蓄積が残されていると見られる。 しかしながら、これまでその結果が公表されたことはない。今回の「連続利用」「3日用の設定」というルール変更に、アンケート結果が反映されたのかどうかもわからない。利用者に協力を求めながら、 「不誠実」 だったといわざるを得ない。アンケート結果に誠実に向き合い分析していれば、今回のような反発は生まなかったかもしれない。 問題点の三つ目は、効力に制限が増え実質的な「値上げ」と捉えられるにもかかわらず、その理由や狙いが十分に説明されていないことだ。 JR各社のリリースには「リニューアルした『青春18きっぷ』と『青春18きっぷ北海道新幹線オプション券』で冬の鉄道旅をお楽しみください」とあるだけで、デメリットが生じたことには触れられていない。辛うじて括弧書きで 「1枚を複数人でご利用いただくことや、1枚購入してこどもふたりでご利用いただくことはできません」 とあるばかりである。 これでは今後も混乱を招きかねない。従来との変更点などを対照表にして詳説すべき大幅なルール変更にもかかわらず説明不足、不誠実さの感は否めない。