年金繰り下げは「後悔する」といわれる理由 年金額の違いと税金への影響とは
2.年金繰り下げは後悔するといわれる理由
「年金繰り下げは後悔する」など、繰り下げ受給に否定的な主張を見聞きすることがあります。年金繰り下げの「デメリット」ともいえる理由を見ていきましょう。 (1)加給年金がもらえなくなる 加給年金とは、厚生年金保険の加入期間が20年以上ある人が老齢厚生年金を受け取れるようになったとき、その人が生計を維持している「配偶者(65歳未満)」または「子(18歳到達年度末までの子、または障害1・2級の状態にある20歳未満の子)」がいる場合に請求できる、老齢厚生年金の上乗せ給付です(2024年度の配偶者加給年金は年額40万8,100円)。 先述のとおり、繰り下げ待機中に加給年金を受け取れない点は、繰り下げ受給の注意点の一つです。加給年金を受け取れそうな人は、複数の繰り下げパターンの年金額をそれぞれ計算し、繰り下げない場合を含めて比較し、最適な受け取り方を選ぶ必要があります。 受け取り方を選択するポイントは、後出する6.(1)の見出しで詳しく解説します 。 (2)在職老齢年金制度で減らされた額は増額されない 働きながら年金を受け取る場合に、賃金(給与・賞与)と老齢厚生年金(報酬比例部分)の合計が一定の水準を超えると年金が減らされる「在職老齢年金」という制度があります。 65歳以降、厚生年金保険に加入しながら高い賃金で働く人は、老齢厚生年金を繰り下げても本来の年金全部が増えるのではなく、在職老齢年金制度による減額後の老齢厚生年金が増額計算の対象となる点に注意が必要です。 (3)遺族年金は増額されない 老齢厚生年金を受け取っていた人が亡くなると、その人に生計を維持されていた配偶者は遺族厚生年金(亡くなった人の老齢厚生年金[報酬比例部分]の原則75%)を受け取れます。 繰り下げ受給と関連する注意事項は、亡くなった人が繰り下げ増額された老齢厚生年金を受け取っていたとしても、遺族厚生年金の額には引き継がれず、繰り下げなかった場合の本来の額(報酬比例部分)を基に遺族厚生年金が計算される点です。「繰り下げれば自分の老齢年金が増え、自分の死後に配偶者が受け取る遺族年金も増やせる」といった誤解に注意しましょう。 (4)税金や社会保険料が増える 税金や社会保険料は、原則として年収の多寡(たか)に応じて決まります。1.(1)に記載のとおり、繰り下げ受給の結果によっては、年金生活者支援給付金の受給、公的医療保険・介護保険の保険料や窓口での自己負担割合、税金(所得税、住民税)に影響する場合があります。 影響があるのかないのか、影響する場合はいくらくらいなのかは世帯ごとに異なります。税金や社会保険料の負担については次の章の後半で紹介します。