年金繰り下げは「後悔する」といわれる理由 年金額の違いと税金への影響とは
よく聞く「年金の繰り下げ」。年金が増える一方で、受給開始時期が遅くなります。また、気になるのが社会保険料や税金への影響ではないでしょうか。 この記事では「年金繰り下げの注意点は? デメリットはないの?」「年金繰り下げが向いている人はどんな人?」といった疑問を持つ人向けに、判断材料となる情報を網羅的に、できるだけわかりやすくお伝えします。
1.年金繰り下げと年金繰り上げの違い
公的年金(「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」)の本来の受給開始年齢は65歳ですが、各自のライフプランや家計の状況に応じて、受け取り開始を遅らせて年金の額を増やしたり(繰り下げ受給)、年金の額を減らす代わりに受け取り開始を早めたり(繰り上げ受給)することができます。 なお、本記事では「特別支給の老齢厚生年金(限られた人のみ65歳前に受け取れる老齢厚生年金)」に関しては割愛します。 (1)年金繰り下げとは 「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の受給開始を66歳以降に遅らせて、受け取る年金の額を増やすことを「繰り下げ受給」といいます。65歳を基準として、受給開始を遅らせた月数ごとに年金額が0.7%増額されます。 増額率 = 繰り下げ月数 × 0.7% 例:5年遅らせて70歳受給開始の場合、60月 × 0.7% = 増額率42%(本来の年金額の1.42倍受け取れる) 繰り下げ受給には上限年齢があります。以前は70歳でしたが、2022年(令和4年)4月から75歳に引き上げられ、66歳から75歳までの間に繰り下げ受給を請求できるようになりました。 繰り下げ受給の注意点は次のとおりです。 ●老齢基礎年金と老齢厚生年金は、同時繰り下げも、別々の繰り下げもできる。 ●加給年金、振替加算は増額されない。また、繰り下げ待機期間(年金を受け取っていない期間)中は、加給年金、振替加算を受け取れない(受け取れなかった分を繰り下げ受給開始後に受け取ることもできない)。 ●65歳に達した時点で老齢年金を受け取る権利がある場合、75歳に達した月(75歳の誕生日の前日の属する月)を過ぎて繰り下げ受給を請求しても、増額率は84%より増えない(繰り下げ10年、増額率84%が上限)。 ●日本年金機構と共済組合から複数の老齢厚生年金(または退職共済年金)を受け取れる人や、厚生年金基金または企業年金連合会の年金を受け取れる人は、これらすべての年金について繰り下げ受給を同時に請求しなくてはならない。 ●65歳の誕生日の前日から66歳の誕生日の前日までの間に障害給付や遺族給付を受け取る権利があるときは、原則として老齢年金の繰り下げ受給は請求できない。 ●66歳の誕生日以降の繰り下げ待機期間中に、他の公的年金の受給権を得た場合(配偶者が死亡して遺族年金が発生したなど)、その時点で増額率が固定される。 ●増額の結果によっては、年金生活者支援給付金の受給、公的医療保険・介護保険の保険料や自己負担割合、税金(所得税、住民税)に影響する場合がある。 繰り下げ受給が向いている人は、「公的年金を65歳から受け取り始めなくても、当面は生活できる人」です。一方で、当面は年金なしで生活できても、上記の注意点のいくつかに関連し、繰り下げない方がよい人もいます。具体的な例については後掲します。 (2)年金繰り上げとは 60歳から64歳の間に「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」を受け取り始めることを「繰り上げ受給」といいます。受給開始を早める代わりに、早めた月数ごとに年金額が0.4%減額されます。 減額率 = 繰り上げ月数 × 0.4% 例:5年早めて60歳受給開始の場合、60月 × 0.4% = 減額率24%(本来の年金額の76%しか受け取れない) 繰り上げ受給の注意点は次のとおりです。 ●減額率は生涯変わらない。 ●老齢基礎年金と老齢厚生年金は繰り上げ受給を同時に請求しなくてはならない。 ●共済組合など、日本年金機構以外からも老齢厚生年金を受け取れる人は、繰り上げ受給を同時に請求しなくてはならない。 ●65歳になるまでは、遺族厚生年金と繰り上げた老齢基礎年金は同時に受け取れない。 ●繰り上げを請求した日以降に障害年金の要件を満たす障害状態になっても、障害年金に変更できない。 ●寡婦年金は受け取れない。 ●国民年金への任意加入、保険料の追納はできない。 「公的年金の受け取り開始を65歳まで待てない事情がある人」は、繰り上げ受給を選ぶことになります。一方で、切迫した事情がないにもかかわらず「年金は破綻するから、もらえるうちにもらっておくべき」など年金制度への不信や誤解に基づいて、あるいは「自分は長生きしないと思うから」などの理由で繰り上げ受給を選んだ人もいるようです。