【法廷ルポ】一審で無罪“紀州のドン・ファン”元妻に検察が控訴「合理的な疑い」控訴審のポイントは?「事件性」「犯人性」が否定された中…一筋縄ではいかない検察側の立証
『紀州のドン・ファン』と呼ばれた資産家の男性を殺害した罪などに問われていた元妻・須藤早貴被告(28)に対し、12月12日、和歌山地裁は『無罪』を言い渡した。犯行を示す直接的な証拠がない中、事件から6年もの月日を経て、世間が裁判の動向に注目する中、言い渡された無罪判決―。検察側は不服として控訴したことで争いの場を高等裁判所へ移すことになったが、法廷では何があったのか、控訴審でカギとなるポイントを分析する。(報告:阿部頼我)
■判決期日に『巻き髪』は自信の表れか…無罪言い渡しに涙する一幕も
判決が言い渡される数分前、須藤被告が法廷に現れた。 勾留されている人のそれとは思えないほど艶のある長い黒髪は、これまでは真っすぐに揃えられているのが印象的だったが、この日は毛先が緩やかに巻いた状態だった。判決を前にした心情の変化か、それとも気合の表れか、小さな変化が傍聴席から見て取れた。 これまでの裁判の経過・やりとりなどから、無罪判決も十分予想される状況ではあった。法廷戦術も含めた「検察の主張の不十分さ・不明瞭さ」が主な理由だ。そのため、無罪判決が出た場合のシミュレーションもしてはいたが、とはいえ、「どうにか理屈を組み立てて有罪にするのだろう」という思い込みが最後まで頭を離れなかった。 法廷の奥にある扉から裁判員らが現れると、廷内にいる皆が起立し、一礼して着席する。やや張り詰めた空気の中、裁判長が須藤被告を証言台に誘導すると、息つく間もなく速やかに言葉を発しはじめた。 「主文、被告人は無罪」 あまりにもあっけない宣告に、一瞬、法廷内に静寂の時が訪れた。最前列に座っていた私はいち早く席を立って出口を目指したが、静けさが崩れると同時に、他社の記者たちも一斉に動き出し、行く手を阻まれる。外に待機していた記者に「無罪」を伝えると、裁判所の敷地外で構えるカメラの前へ急いだ。 無罪を言い渡された瞬間の須藤被告は、硬直したようにも見受けられたが、すぐに軽く前かがみになり鼻をすするようなそぶりも見られた。廷内に残った記者によると、代理人弁護士から手渡されたハンカチで涙を拭っていたという。判決理由が読み上げられている最中は真っすぐ裁判長の方を見据え、言い渡しが終わると裁判長に一礼をし、法廷を後にした。